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ジャン・クリストフ(3/31)

(638字。目安の読了時間:2分)

ふるえ、ゆらぎ、はためくすべてのもの、照りわたった夏の日、風の夜、流れる光、星のきらめき、雨風、小鳥の歌、虫の羽音、樹々のそよぎ、好ましい声やいとわしい声、ふだん聞きなれている、炉の音、戸の音、夜の静けさのうちに動脈をふくらます血液の音、ありとあらゆるものが、みな音楽である。
ただそれを聞きさえすればいいのだ。
ありとあらゆるものが奏でるそういう音楽は、すべてクリストフのうちに鳴りひびいていた。
彼が見たり感じたりするあらゆるものは、みな音楽に変わっていた。
彼はちょうど、そうぞうしい蜂の巣のようだった。
しかし誰もそれに気づかなかった。
彼自身も気づかなかった。
 どの子供でもするように、彼もたえず小声で歌っていた。
どんな時でも、どういうことをしてる時でも、たとえば片足でとびながら往来を歩きまわっている時でも――祖父の家の床にねころがり、両手で頭を抱えて書物の挿絵に見入っている時でも――台所のいちばんうす暗い片隅で、自分の小さな椅子に坐(すわ)って、夜になりかかっているのに、何を考えるともなくぼんやり夢想している時でも――彼はいつも、口を閉じ、頬(ほほ)をふくらし、唇をふるわして、つぶやくような単調な音をもらしていた。
幾時間たっても彼はあきなかった。
母はそれを気にもとめなかったが、やがて、たまらなくなって、ふいに叱(しか)りつけるのだった。
 その半ば夢心地の状態にあきてくると、彼は動きまわって音をたてたくてたまらなくなった。

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