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機械(6/30)

(812字。目安の読了時間:2分)

家のことを何一つ任かしておけないばかりではない、一人で済ませる用事も二人がかりで出かけたりその一人のいるために周囲の者の労力がどれほど無駄に費されているか分らぬのだが、しかしそれはそうにちがいないとしてもこの主人のいるいないによって得意先のこの家に対する人気の相異は格段の変化を生じて来る。
恐らくここの家は主人のために人から憎まれたことがないにちがいなく主人を縛る細君の締りがたとい悪評を立てたとしたところでそんなにも好人物の主人が細君に縛られて小さく忍んでいる様子というものはまた自然に滑稽な風味があって喜ばれ勝ちなものでもあり、その細君の睨みの留守に脱兎のごとく脱け出してはすっかり金銭を振り撒いて帰って来る男というのもこれまた一層の人気を立てる材料になるばかりなのだ。
 そんな風に考えるとこの家の中心は矢張り細君にもなく私や軽部にもない自ら主人にあるといわねばならなくなって来て私の傭人根性が丸出しになり出すのだが、どこから見たって主人が私には好きなんだから仕様がない。
実際私の家の主人はせいぜい五つになった男の子をそのまま四十に持って来た所を想像すると浮んで来る。
私たちはそんな男を思うと全く馬鹿馬鹿しくて軽蔑したくなりそうなものにも拘らずそれが見ていて軽蔑出来ぬというのも、つまりはあんまり自分のいつの間にか成長して来た年齢の醜さが逆に鮮かに浮んで来てその自身の姿に打たれるからだ。
こんな自分への反射は私に限らず軽部にだって常に同じ作用をしていたと見えて、後で気附いたことだが、軽部が私への反感も所詮はこの主人を守ろうとする軽部の善良な心の部分の働きからであったのだ。
私がここの家から放れがたなく感じるのも主人のそのこの上もない善良さからであり、軽部が私の頭の上から金槌を落したりするのも主人のその善良さのためだとすると、善良なんていうことは昔から案外良い働きをして来なかったにちがいない。

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