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機械(20/30)

(791字。目安の読了時間:2分)

それでは君は私から疑われたとそれほど早く気附くからには君も這入って来るなり私から疑われることに対してそれほど警戒する練習が出来ていたわけだと私がいうと、それはそうだと彼はいった。
しかし、彼がそれはそうだといったのは自分は方法を盗みに来たのが目的だといったのと同様なのにも拘らず、それをそういう大胆さには私とて驚かざるを得ないのだ。
もしかすると彼は私を見抜いていて、彼がそういえば私は驚いてしまって彼を忽ち尊敬するにちがいないと思っているのではないかと思われて、此奴、と暫く屋敷を見詰めていたのだが、屋敷は屋敷でもう次の表情に移ってしまって上から逆に冠さって来ながら、こんな製作所へこういう風に這入って来るとよく自分たちは腹に一物あっての仕事のように思われ勝ちなものであるが君も勿論知ってのとおりそんなことなんかなかなかわれわれには出来るものではなく、しかし弁解がましいことをいい出してはこれはまた一層おかしくなって困るので仕方がないから人々の思うように思わせて働くばかりだといって、一番困るのは君のように痛くもない所を刺して来る眼つきの人のいることだと私をひやかした。
そういわれると私だってもう彼から痛いところを刺されているので彼も丁度いつも今の私のように私から絶えずちくちくやられたのであろうと同情しながら、そういうことをいつもいっていなければならぬ仕事なんかさぞ面白くはなかろうと私がいうと、屋敷は急に雁首を立てたように私を見詰めてからふッふと笑って自分の顔を濁してしまった。
それから私はもう屋敷が何を謀んでいようと捨てておいた。
多分屋敷ほどの男のことだから他人の家の暗室へ一度這入れば見る必要のある重要なことはすっかり見てしまったにちがいないのだし、見てしまった以上は殺害することも出来ない限り見られ損になるだけでどうしようも追っつくものではないのである。

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