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麦藁帽子(5/31)

(573字。目安の読了時間:2分)

……」――私は振りむく。
さっきの少女が、砂の中から半身を出してにっこりと笑っているのが、今度は、私にもよく見える。
「なあんだ、君だったの?」
「おわかりになりませんでしたこと?」
 海水着がどうも怪しい。
私がそれ一枚きりになるや否や、私は妖精の仲間入りをする。
私は身軽になって、いままでちっとも見えなかったものが忽(たちま)ち見え出す……
 都会では難しいものに見える愛の方法も、至極簡単なものでいいことを会得させる田舎暮らしよ! 一人の少女の気に入るためには、かの女の家族の様式を呑(の)み込んでしまうが好い。
そしてそれは、お前の家族と一しょに暮らしているおかげで、私には容易だった。
お前の一番気に入っている若者は、お前の兄たちであることを、私は簡単に会得する。
彼等はスポオツが大好きだった。
だから、私も出来るだけ、スポオティヴになろうとした。
それから彼等は、お前に親密で、同時に意地悪だった。
私も彼等に見習って、お前をば、あらゆる遊戯からボイコットした。
 お前がお前の小さな弟と、波打ちぎわで遊び戯れている間、私はお前の気に入りたいために、お前の兄たちとばかり、沖の方で泳いでいた。
 沖の方で泳いでいると、水があんまり綺麗なので、私たちの泳いでいる影が、魚のかげと一しょに、水底に映った。

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