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麦藁帽子(7/31)

(602字。目安の読了時間:2分)

「今日はまだ一ぺんもしてあげなかったのね……」そう云って、お前はその小さな弟を引きよせて、私たちのいる前で、平気で彼と接吻をする。
 私はいつまでも投球のモオションを続けながら、それを横目で見ている。
 その牧場のむこうは麦畑だった。
その麦畑と麦畑の間を、小さな川が流れていた。
よくそこへ釣りをしに行った。
お前は私たちの後から、黐竿(もちざお)を肩にかついだ小さな弟と一しょに、魚籠をぶらさげて、ついてきた。
私は蚯蚓(みみず)がこわいので、お前の兄たちにそれを釣針につけて貰(もら)った。
しかし私はすぐそれを食われてしまう。
すると、しまいには彼等はそれを面倒くさがって、そばで見ているお前に、その役を押しつける。
お前は私みたいに蚯蚓をこわがらないので。
お前はそれを私の釣針につけてくれるために、私の方へ身をかがめる。
お前はよそゆきの、赤いさくらんぼの飾りのついた、麦藁帽子をかぶっている。
そのしなやかな帽子の縁が、私の頬(ほお)をそっと撫(な)でる。
私はお前に気どられぬように深い呼吸をする。
しかしお前はなんの匂いもしない。
ただ麦藁帽子の、かすかに焦げる匂いがするきりで。
……私は物足りなくて、なんだかお前にだまかされているような気さえする。
 まだあんまり開けていない、そのT村には、避暑客らしいものは、私たちの他には、一組もない位だった。

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