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麦藁帽子(15/31)

(552字。目安の読了時間:2分)

気の小さな私はすっかりしょげて、其処から引き返した。
――私はあとでもって、一人でこっそりと、その井戸端に行ってみた。
そしてそこの隅っこに、私の海水着が丸められたまま、打棄てられてあるのを見た。
私ははっと思った。
いつもなら私の海水着をそこへ置いておくと、兄たちのと一緒に、お前がゆすいで乾して置いてくれるのだ。
そのことでお前はさっきお前の母に叱られていたものと見える。
私はその海水着を、音の立たないように、そっと水をしぼって、いつものように竿(さお)にかけておいた。
 翌朝、私はその砂でざらざらする海水着をつけて、何食わぬ顔をしていた。
気のせいか、お前はすこし鬱いでいるように見えた。
 とうとう休暇が終った。
 私はお前の家族たちと一しょに帰った。
汽車の中には、避暑地がえりの真っ黒な顔をした少女たちが、何人も乗っていた。
お前はその少女たちの一人一人と色の黒さを比較した。
そうしてお前が誰よりも一番色が黒いので、お前は得意そうだった。
私は少しがっかりした。
だが、お前がちょっと斜めに冠っている、赤いさくらんぼの飾りのついたお前の麦藁帽子は、お前のそんな黒いあどけない顔に、大層よく似合っていた。
だから、私はそのことをそんなに悲しみはしなかった。

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