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科学の不思議(10/30)

(837字。目安の読了時間:2分)

アンブロアジヌお婆あさんの古いお話よりはずつと面白くて為めになるやうな話を持ち出すのに、みんなの話の向をかへるいゝ折が来たのです。
『私は本当のお話を聞きたがつてゐるお前に賛成します。』と叔父さんが云ひました。
『お前は其の本当の話の中にでも不思議な事を見つけ出すだらう。
そして其の話は、お前位の年頃の者をよろこばせもするだらうし、又お前の年になれば自分でよく考へねばならない、後々の生活の準備にも十分に役に立つだらう。
本当の話は人喰鬼が新しい血を嗅ぎ出す話や、妖精がとうなすを馬車にしたり蜥蜴(とかげ)を従者に化けさせたりする話よりは、もつと本当に面白い筈だ。
それとも外にもつといゝ話があるかい? 本当の話と、取るにも足りない作り話とをくらべて御覧。
本当の話はみんな神様の仕事で、作り話は人間の夢なのだよ。
アンブロアジヌお婆あさんは氷を渡つて見ようとして足をくぢいた蟻の話でお前を面白がらせる事が出来なかつたね。
私はもつとうまく話せるかも知れない。
誰れか本物の蟻についての本当の話を聞きたい人があるかね!』
『私! 私!』エミルもジユウルもクレエルもみんな一緒に叫びました。
三 蟻の都会
『蟻は立派な働き手だ。』とポオル叔父さんは話はじめました。
『私は幾度も朝の太陽が暖く照りはじめる時分に、蟻達が小な蟻塚のまはりをとりまいて働いてゐるのを見て楽しんだ。
蟻塚にはどれにもめいめいに其のてつぺんに、出入口になる穴が穿(あ)いてゐるのだ。
『其の塚の穴の口に、或る一匹が底の方から出て来ると、いくらでもあとからあとからと続いて出て来る。
そして其の蟻達はみんな体の割には重すぎる位の、小さな土の粒を喞(くわ)へて運んでゐる。
塚の頂上に着くと、蟻は其の重荷をおろして、塚の勾配を転がし下すのだ。
そして、直ぐに又中に下りてゆく。
蟻達は、途中で遊んだり、一寸の間でも仲間と立ち止まつて一緒に休むなどと云ふ事はないのだ。

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