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秘密(2/30)

(570字。目安の読了時間:2分)

同時に又こんな事も考えて見た。
―――
己は随分旅行好きで、京都、仙台、北海道から九州までも歩いて来た。
けれども未だこの東京の町の中に、人形町で生れて二十年来永住している東京の町の中に、一度も足を蹈(ふ)み入れた事のないと云う通りが、屹度あるに違いない。
いや、思ったより沢山あるに違いない。
そうして大都会の下町に、蜂の巣の如く交錯している大小無数の街路のうち、私が通った事のある所と、ない所では、孰方が多いかちょいと判らなくなって来た。
何でも十一二歳の頃であったろう。
父と一緒に深川の八幡様へ行った時、
「これから渡しを渡って、冬木の米市で名代のそばを御馳走してやるかな。」
こう云って、父は私を境内の社殿の後の方へ連れて行った事がある。
其処には小網町や小舟町辺の掘割と全く趣の違った、幅の狭い、岸の低い、水の一杯にふくれ上っている川が、細かく建て込んでいる両岸の家々の、軒と軒とを押し分けるように、どんよりと物憂く流れて居た。
小さな渡し船は、川幅よりも長そうな荷足りや伝馬が、幾艘も縦に列んでいる間を縫いながら、二た竿(さお)三竿ばかりちょろちょろと水底を衝いて往復して居た。
私はその時まで、たびたび八幡様へお参りをしたが、未だ嘗(かつ)て境内の裏手がどんなになっているか考えて見たことはなかった。

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