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秘密(6/30)

(669字。目安の読了時間:2分)

私は秘密と云う物の面白さを、子供の時分からしみじみと味わって居た。
かくれんぼ、宝さがし、お茶坊主のような遊戯―――殊に、それが闇の晩、うす暗い物置小屋や、観音開きの前などで行われる時の面白味は、主としてその間に「秘密」と云う不思議な気分が潜んで居るせいであったに違いない。
私はもう一度幼年時代の隠れん坊のような気持を経験して見たさに、わざと人の気の附かない下町の曖昧なところに身を隠したのであった。
そのお寺の宗旨が「秘密」とか、「禁厭」とか、「呪詛」とか云うものに縁の深い真言宗であることも、私の好奇心を誘うて、妄想を育ませるには恰好であった。
部屋は新らしく建て増した庫裡の一部で、南を向いた八畳敷きの、日に焼けて少し茶色がかっている畳が、却って見た眼には安らかな暖かい感じを与えた。
昼過ぎになると和やかな秋の日が、幻燈の如くあかあかと縁側の障子に燃えて、室内は大きな雪洞のように明るかった。
それから私は、今迄親しんで居た哲学や芸術に関する書類を一切戸棚へ片附けて了って、魔術だの、催眠術だの、探偵小説だの、化学だの、解剖学だのの奇怪な説話と挿絵に富んでいる書物を、さながら土用干の如く部屋中へ置き散らして、寝ころびながら、手あたり次第に繰りひろげては耽読した。
その中には、コナンドイルの The Sign of Four や、ドキンシイの Murder, Considered as one of the fine arts や、アラビアンナイトのようなお伽噺(とぎばなし)から、仏蘭西の不思議な Sexuology の本なども交っていた。

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