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秘密(8/30)

(602字。目安の読了時間:2分)

畳の上に投げ出された無数の書物からは、惨殺、麻酔、魔薬、妖女、宗教―――種々雑多の傀儡(かいらい)が、香の煙に溶け込んで、朦朧(もうろう)と立ち罩(こ)める中に、二畳ばかりの緋毛氈を敷き、どんよりとした蛮人のような瞳を据えて、寝ころんだ儘(まま)、私は毎日々々幻覚を胸に描いた。
夜の九時頃、寺の者が大概寝静まって了うとウヰスキーの角壜を呷(あお)って酔いを買った後、勝手に縁側の雨戸を引き外し、墓地の生け垣を乗り越えて散歩に出かけた。
成る可く人目にかからぬように毎晩服装を取り換えて公園の雑沓の中を潜って歩いたり、古道具屋や古本屋の店先を漁り廻(まわ)ったりした。
頬冠りに唐桟の半纏を引っ掛け、綺麗に研いた素足へ爪紅をさして雪駄を穿(は)くこともあった。
金縁の色眼鏡に二重廻しの襟を立てて出ることもあった。
着け髭(ひげ)、ほくろ、痣(あざ)と、いろいろに面体を換えるのを面白がったが、或る晩、三味線堀の古着屋で、藍地に大小あられの小紋を散らした女物の袷(あわせ)が眼に附いてから、急にそれが着て見たくてたまらなくなった。
一体私は衣服反物に対して、単に色合が好いとか柄が粋だとかいう以外に、もっと深く鋭い愛着心を持って居た。
女物に限らず、凡べて美しい絹物を見たり、触れたりする時は、何となく顫い附きたくなって、丁度恋人の肌の色を眺めるような快感の高潮に達することが屡々であった。

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