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父帰る(1/15)

(550字。目安の読了時間:2分)

人物
 黒田賢一郎     二十八歳
 その弟  新二郎  二十三歳
 その妹  おたね  二十歳
 彼らの母 おたか  五十一歳
 彼らの父 宗太郎

 明治四十年頃

 南海道の海岸にある小都会
情景 中流階級のつつましやかな家、六畳の間、正面に箪笥があって、その上に目覚時計が置いてある。
前に長火鉢あり、薬缶から湯気が立っている。
卓子台が出してある。
賢一郎、役所から帰って和服に着替えたばかりと見え、寛いで新聞を読んでいる。
母のおたかが縫物をしている。
午後七時に近く戸外は闇し、十月の初め。
賢一郎 おたあさん、おたねはどこへ行ったの。
母   仕立物を届けに行った。
賢一郎 まだ仕立物をしとるの。
もう人の家の仕事やこし、せんでもええのに。
母   そうやけど嫁入りの時に、一枚でも余計ええ着物を持って行きたいのだろうわい。
賢一郎 (新聞の裏を返しながら)この間いうとった口はどうなったの。
母   たねが、ちいと相手が気に入らんのだろうわい。
向こうはくれくれいうてせがんどったんやけれどものう。
賢一郎 財産があるという人やけに、ええ口やがなあ。
母   けんど、一万や、二万の財産は使い出したら何の役にもたたんけえな。

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【お知らせ】
今月前半は、何度も映画化された菊池寛の人気戯曲『父帰る』をお送りします。
また10月・11月はKADOKAWAより出版されている書籍『文豪どうかしてる逸話集』とコラボし、月初にその月に配信する文豪のどうかしてる逸話をご紹介します!

さっそく今月は菊池寛のエピソードをお楽しみください。

▼文豪紹介
菊池寛(1888-1948)
芥川龍之介らと同世代の小説家で、現代まで続く文藝春秋社を創業した実業家でもある。 小説『真珠夫人』が大ヒットし人気作家に。 友人であった芥川と直木三十五の夭折を悼み、芥川賞・直木賞を創設した。

▼エピソード
菊池寛が、「来月にもやめるかもしれない。」と出した雑誌、100年続く。

 菊池寛が35歳の時に創刊した雑誌『文藝春秋』は、よその文芸雑誌の値段が1冊80銭~1円の時代に1冊10銭と破格の安さで、 さらに菊池の人脈を余すところなく発揮し、当時売れっ子作家だった芥川龍之介をはじめ、川端康成や直木三十五など気鋭の作家に寄稿させた創刊号3000部はまたたくまに売り切れます。
その後も売り上げを伸ばし、「特別創作号」と銘打った号は1万1千部の売り上げと大ヒットします。

一気に超人気雑誌となった『文藝春秋』は、社員を増やすべく公募を告知すると、なんと700名を超える応募があり、菊池は「麹町・春日町・雑司ケ谷・八重洲、これらの地名の由来を答えよ。」とだけ出題して、回答できた人間は全員採用しました。

社員が増えれば風紀も乱れる。 いつも仕事中に将棋を指したり卓球をしたりして遊んでいた菊池を見習ってか、社員たちも毎日遊んでばっかり。
さすがにこれはまずいと見かねた菊池は、「卓球・将棋禁止令」を出しましたが、この禁止令に一番苦しんだのも、一番最初に破ったのも菊池本人でした。

出典:進士素丸『文豪どうかしてる逸話集』
https://amazon.co.jp/dp/4046044519

※他にもブンゴウメールでこれまで配信した作家のエピソードも多数収録されているので、興味を持った方はぜひ書籍もチェックしてみてください!

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