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父帰る(7/15)

(584字。目安の読了時間:2分)

(三人食事にかかる)
母   たねも、もう帰ってくるやろう。
もうめっきり寒うなったな。
新二郎 おたあさん、今日浄願寺の椋(むく)の木で百舌が鳴いとりましたよ。
もう秋じゃ。
……兄さん、僕はやっぱり、英語の検定をとることにしました。
数学にはええ先生がないけに。
賢一郎 ええやろう。
やはり、エレクソンさんとこへ通うのか。
新二郎 そうしようと、思っとるんです。
宣教師じゃと月謝がいらんし。
賢一郎 うむ、何しろ一生懸命にやるんだな、父親の力は借らんでも一人前の人間にはなれるということを知らせるために、勉強するんじゃな。
わしも高等文官をやろうと思うとったけど、規則が改正になって、中学を出とらな受けられんいうことになったから、諦めとんや。
お前は中学校を卒業しとるんやけに、一生懸命やってくれないかん。
(この時、格子が開いて、おたねが帰って来る。色白く十人並以上の娘なり)
おたね ただいま。
母   遅かったのう。
おたね また次のものを頼まれたり、何かしとったもんやけに。
母   さあ御飯おたべ。
おたね (座りながら、やや不安なる表情にて)兄さん、今帰って来るとな、家の向う側に年寄の人がいて家の玄関の方をじーと見ているんや。
(三人とも不安な顔になる)
賢一郎 うーむ。


新二郎 どんな人だ。

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