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父帰る(13/15)

(603字。目安の読了時間:2分)

 
父   (憤然として物をいう、しかしそれは飾った怒りでなんの力も伴っていない)賢一郎! お前は生みの親に対してよくそんな口が利けるのう。
賢一郎 生みの親というのですか。
あなたが生んだという賢一郎は二十年も前に築港で死んでいる。
あなたは二十年前に父としての権利を自分で捨てている。
今のわしは自分で築きあげたわしじゃ。
わしは誰にだって、世話になっておらん。
(すべて無言、おたかとおたねのすすりなきの声がきこえるばかり)
父   ええわ、出て行く。
俺だって二万や三万の金は取り扱うてきた男じゃ。
どなに落ちぶれたかというて、食うくらいなことはできるわ。
えろう邪魔したな。
(悄然と行かんとす)
新二郎 まあ、お待ちまあせ。
兄さんが厭だというのなら僕がどうにかしてあげます。
兄さんだって親子ですから、今に機嫌の直ることがあるでしょう。
お待ちまあせ。
僕がどななことをしても養うて上げますから。
賢一郎 新二郎! お前はその人になんぞ世話になったことがあるのか。
俺はまだその人から拳骨の一つや二つは貰ったことがあるが、お前は塵一つだって貰ってはいないぞ。
お前の小学校の月謝は誰が出したのだ。
お前は誰の養育を受けたのじゃ。
お前の学校の月謝は、兄さんがしがない給仕の月給から払ってやったのを忘れたのか。
お前や、たねのほんとうの父親は俺だ。

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