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父帰る(14/15)

(597字。目安の読了時間:2分)

お前や、たねのほんとうの父親は俺だ。
父親の役目をしたのは俺じゃ。
その人を世話したければするがええ。
その代り兄さんはお前と口は利かないぞ。
新二郎 しかし……。
賢一郎 不服があれば、その人と一緒に出て行くがええ。
(女二人とも泣きつづけている。新二郎黙す)
賢一郎 俺は父親がないために苦しんだけに、弟や妹にその苦しみをさせまいと思うて夜も寝ないで艱難したけに、弟も妹も中等学校は卒業させてある。
父   (弱く)もう何もいうな。
わしが帰って邪魔なんだろう。
わしやって無理に子供の厄介にならんでもええ。
自分で養うて行くぐらいの才覚はある。
さあもう行こう。
おたか! 丈夫で暮せよ。
お前はわしに捨てられてかえって仕合せやな。
新二郎 (去らんとする父を追いて)あなたお金はあるのですか。
晩の御飯もまだ食べとらんのじゃありませんか。
父   (哀願するがごとく瞳を光らせながら)ええわええわ。
(玄関に降りんとしてつまずいて、縁台の上に腰をつく)
おたか あっ、あぶない。
新二郎 (父を抱き起しながら)これから行く所があるのですか。
父   (まったく悄沈として腰をかけたまま)のたれ死するには家は要らんからのう……(独言のごとく)俺やってこの家に足踏ができる義理ではないんやけど、年が寄って弱ってくると、故郷の方へ自然と足が向いてな。

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