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断腸亭日乗(2/30)

(699字。目安の読了時間:2分)

其後は今の入江家との地境になりし檜の植込深き間にひそみ庭に下り来りて散り敷く落葉を踏み歩むなり。
此の鳩そも/\いづこより飛来れるや。
果して十年前の鳩なるや。
或は其形のみ同じくして異れるものなるや知るよしもなし。
されどわれは此の鳥の来るを見れば、殊更にさびしき今の身の上、訳もなく唯なつかしき心地して、或時は障子細目に引あけ飽かず打眺ることもあり。
或時は暮方の寒き庭に下り立ちて米粒麺麭の屑など投げ与ふることあれど决して人に馴れず、わが姿を見るや忽羽音鋭く飛去るなり。
世の常の鳩には似ず其性偏屈にて群に離れ孤立することを好むものと覚し。
何ぞ我が生涯に似たるの甚しきや。
正月十日。
歯いたみて堪へがたし。
正月十一日。
松の内と題する雑録を草して三田文学に寄す。
正月十二日。
寒気甚しけれど毎日空よく晴れ渡りたり。
断膓亭の小窗に映る樹影墨絵の如し。
徒然のあまりつら/\この影を眺めやるに、去年十一月の頃には昼前十一時頃より映り始め正午を過るや影は斜になりて障子の面より消え去りぬ。
十二月に入りてよりは正午の頃影最鮮にて窗の障子一面さながら宗達が筆を見るが如し。
年改りて早くも半月近くなりたる此頃窗の樹影は昼過二時より三時頃最も鮮にして、四時を過ぎても猶消去らず。
短き冬の日も大寒に入りてより漸く長くなりたるを知る。
障子を開き見れば瑞香の蕾大きくふくらみたり。
正月十三日。
園丁五郎を呼び蝋梅芍薬瑞香など庭中の草木に寒中の肥料を施さしむ。
蝋梅二株ある中其の一株去年より勢なく花をつくる事少くなりたれば今より枯れぬ用心するなり。

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