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断腸亭日乗(29/30)

(652字。目安の読了時間:2分)

十二月廿二日。
築地二丁目路地裏の家漸く空きたる由。
竹田屋人足を指揮して、家具書筐を運送す。
曇りて寒き日なり。
午後病を冒して築地の家に徃き、家具を排置す、日暮れて後桜木にて晩飯を食し、妓八重福を伴ひ旅亭に帰る。
此妓無毛美開、閨中欷歔すること頗妙。
十二月廿三日。
雪花紛々たり。
妓と共に旅亭の風呂に入るに湯の中に柚浮びたり。
転宅の事にまぎれ、此日冬至の節なるをも忘れゐたりしなり。
午後旅亭を引払ひ、築地の家に至り几案書筐を排置して、日の暮るゝと共に床敷延べて伏す。
雪はいつか雨となり、点滴の音さながら放蕩の身の末路を弔ふものゝ如し。
十二月廿五日。
終日老婆しんと共に家具を安排し、夕刻銀座を歩む。
雪また降り来れり。
路地裏の夜の雪亦風趣なきにあらず。
三味線取出して低唱せむとするに皮破れゐたれば、桜木へ貸りにやりしに、八重福満佐等恰その家に在りて誘ふこと頻なり。
寝衣に半纒引きかけ、路地づたひに徃きて一酌す。
雪は深更に及んでます/\降りしきる。
二妓と共に桜木に一宿す。
十二月廿六日。
雪歇みて暖なり。
二妓雪後の墨堤を歩むべしと勧めたれば、自働車にて先浅草に至り、観音堂に詣づ。
御籤を引くに第六十二大吉を得たり。
余妓を携へて浅草寺に賽するや必御籤を引きて吉凶を占ふに、当らずといふことなし。
余居邸を売り、路地の陋屋に隠退し、将に老後の計をなさむとす。
大吉の御籤を得て喜び限りなし。
災轗時々退。

名顕四方揚。

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