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絵のない絵本(1/59)

(779字。目安の読了時間:2分)

絵のない絵本
 ふしぎなことです! わたしは、なにかに深く心を動かされているときには、まるで両手と舌とが、わたしのからだにしばりつけられているような気持になるのです。
そしてそういうときには、心の中にいきいきと感じていることでも、それをそのまま絵にかくこともできなければ、言い表わすこともできないのです。
しかし、それでもわたしは絵かきです。
わたしの眼が、わたし自身にそう言い聞かせています。
それに、わたしのスケッチや絵を見てくれた人たちは、みんながみんな、そう認めてくれているのです。
 わたしは貧しい若者で、たいへんせまい小路の一つに住んでいます。
といっても、光がさしてこないというようなことはありません。
なにしろ、まわりの屋根ごしに、ずっと遠くの方まで見わたすことができるほど、高いところに住んでいるのですから。
この町にきた、さいしょのころは、ひどくせまくるしい気がして、さびしい思いをしたものです。
それもそのはず、森やみどりの丘のかわりに、地平線に見えるものといえば、ただ灰色の煙突ばかりなのですからね。
おまけに、ここには、友だちひとりいるわけではありませんし、あいさつの声をかけてくれるような顔なじみもなかったのです。
 ある晩のこと、わたしはたいへん悲しい気持で、窓のそばに立っていました。
ふと、わたしは窓をあけて、外をながめました。
ああ、そのとき、わたしは、どんなに喜んだかしれません! そこには、わたしのよく知っている顔が、まるい、なつかしい顔が、遠い故郷からの、いちばん親しい友だちの顔が、見えたのです。
それは月でした。
なつかしい、むかしのままの月だったのです。
あの故郷の、沼地のそばに生えている、ヤナギの木のあいだから、わたしを見おろしたときと、すこしもかわらない月だったのです。

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【お知らせ】
みなさま、明けましておめでとうございます!
新年最初のブンゴウメールは、デンマークの世界的童話作家アンデルセンの連作短編『絵のない絵本』です。
1月から2月にかけて2ヶ月連続配信いたします。

2021年がみなさまにとっていい1年になりますように。
今年もどうぞよろしくお願いいたします!

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