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絵のない絵本(7/59)

(766字。目安の読了時間:2分)

女は、もう死んでいたのです。あけはなたれた窓から、死んだ女が、人間のありかたをといていました。牧師の家の庭の、わたしのバラの花が!」
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第四夜
「わたしは、今夜、ドイツ喜劇を見てきました」と、月が言いました。
「それは、ある小さな町でのことでした。馬小屋が芝居小屋になっていました。つまり、馬をつなぐ仕切りはそのまま残してあって、これをかざりたてて、見物の桟敷にしてあったのです。そして木造のところは、どこもかしこも色とりどりの色紙で張りめぐらしてありました。ひくい天井からは、小さな鉄のシャンデリアがさがっていました。そしてその上には、桶(おけ)が一つさかさにはめこまれていて、まるで大きな劇場のように、プロンプターのベルが『リーン、リーン』と鳴りひびくのを合図に、その桶の中にシャンデリアが引き上げられるようになっていました。『リーン、リーン』小さな鉄のシャンデリアが、三、四十センチばかり跳ねあがりました。こうして、喜劇が始まることになったのです。
 旅行中の、ある若い公爵が、奥方といっしょに、ちょうどこの町を通りかかって、きょうの芝居を見物にきていました。そのため、小屋は人でいっぱいでしたが、ただシャンデリアの下だけは小さな噴火口のようになっていました。そこには、ろうが『ポタリ、ポタリ』と落ちるので、だれもすわる人がなかったのです。わたしは、なにもかもながめました。というわけは、小屋の中がひどくむし暑かったので、壁の小窓という小窓を、あけはなしておかずにはいられなかったからです。そしてどの小窓の外からも、若い男や女が中をのぞきこんでいました。もっとも、中には警官がいて棒でおどしてはいましたが。
 オーケストラのすぐそばに、若い公爵夫妻が、二つの古い肘掛いすに腰かけているのが見えました。

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