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絵のない絵本(11/59)

(750字。目安の読了時間:2分)

はだの見える地面が、大きな文字や名前となって現われています。そしてそういう文字や名前が、大きな丘の上に張られた一つの網のようになっているのです。いわば一種の不滅です。もっとも、それをまた新しい芝生がおおっていくのですが。
 そこに、ひとりの男が立っていました。歌い手でした。男はひろい銀の輪のついた蜜酒のさかずきを飲みほして、一つの名前をつぶやきました。そして風に向って、その名前をだれにももらさないようにと頼みました。ところが、わたしは聞いてしまったのです。わたしはその名前を知っていました。その名前の上には、伯爵の冠がきらめいています。だからこの男は、その名前を大声で言わなかったのです。わたしはほほえみました。この男の上には、詩人の冠がきらめいているではありませんか! エレオノーラ・デステの高貴さはタッソーの名前と結びついています。それからまたわたしは知っています、どこに美のバラが咲くかということを――!」
 月がこう言ったとき、一片の雲が通りすぎました。
――詩人とバラのあいだには、どんな雲も割りこまないでいてもらいたいものです。
[#改ページ]
第七夜
「波打ちぎわにそって、カシワの木とブナの木の森がひろがっています。そこはいかにもすがすがしい森で、よい香りがただよっています。春になると、幾百ともしれないナイチンゲールが訪れてきます。この森のすぐ近くに海があります。永遠に姿を変えている海です。そしてこの森と海とのあいだを、広い国道が通っています。馬車がつぎからつぎへと走っています。けれどもわたしは、その後については行きません。わたしの眼は、たいてい一つの点にとまるのです。そこには一つの大きな塚があります。キイチゴの蔓(つる)とリンボクが、石の間からのびています。

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