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絵のない絵本(42/59)

(797字。目安の読了時間:2分)

そして紡車をながめました。それからすぐに、かわいらしい素足が一つ寝床から出てきました。またもう一つが出てきました。こうして小さな脚が二本現われました。コトリ! 男の子は床の上に立ちました。男の子はもう一度振り向いて、父親と母親が眠っているかどうかをたしかめました。たしかに、ふたりとも眠っています。そこで、小さな短い寝巻のまま、ぬき足さし足こっそりと紡車のところへしのびよって、つむぎはじめました。糸は紡錘から飛び、車はすばらしい早さでまわりました。
 わたしはその子のブロンドの髪の毛と水色の眼にキスをしてやりました。それはほんとにかわいらしい光景でした。そのとき、母親が眼をさましました。カーテンが動いて、母親が外をのぞきました。そして、小人の妖精か、さもなければ、ほかの小さな精霊が来ているのではないかと思いました。
『あらまあ!』母親はこう言いながら、こわごわ夫の脇腹をつつきました。父親は眼をあけると、手でこすりこすり、一心に働いている小さい少年のほうをながめました。
『あれはベルテルじゃないか』と、父親は言いました。
 それから、わたしの眼はそのみすぼらしい部屋を後にして、べつのところへ向いました。なぜなら、わたしはとても広いところを見まわしているのですから。その同じ瞬間に、わたしは大理石の神々が立っているバチカン宮の広間を見ていました。わたしはラオコーンの群像を照らしました。すると、石が溜息をするように思われました。わたしは美の女神ミューズの胸に、そっとキスをしました。すると、その胸が高まるような気がしました。
 けれども、わたしの光はナイルの群像のところに、あの巨大な神のところに、いちばん長くとどまっていました。その巨大な神はスフィンクスに身をもたせて、まるで移り行く年月のことを考えてでもいるかのように、物思いにしずんで、夢みるように横たわっていました。

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