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みずうみ(18/31)

(722字。目安の読了時間:2分)

――眠元朗は退窟と倦怠とをなお二重にとり廻したようなこの晩景のなかに、しかもなお索漠たる砂上を踏んで歩いていると、おのれの変り果てた姿をもう一度ふりかえって見て、しかもどうにもならない微笑が浮んでくることを感じた。
――眠元朗はいまさらのように四辺を回顧しながら、寂しい風物の間に、貝殻に耳をあてながら聞くような湖鳴りに幾たびとなく耳を欹(そばだ)てた。
「これは何という寂漠とした、しかも動かない風物であろう、――この中に封じ込められているということは、夢でなくて何んであろう。」
 しかも眠元朗の感情は、遠い世のそれから引続いたものを持って、絶えず何かにあこがれようとしている。
かれのあこがれが何であるかも、そのあこがれに対って妻が絶えずその目をそそいでいることも、あまりに明るすぎるくらい分っている。
――一度夢を棄てたかれらにいつの間にか夢は戻ってきて、二人の間になお暗い遠い世のつながりを置いている。
いまはそれすらもおたがいに匿そうとしてはいない――まともに受けた光のように、何とこの褐色の寂しい世に二つの心はさびしく対い合っていることであろう? 眠元朗は遠い世にあってはこうまで厳しい人間の心が向きあう息苦しさを感じなかったのに、いまは何というまざまざとしたお互いの心を感じあうことのみに、月日が灰や炭のように消えて行くことであろうぞ――眠元朗は岩壁へ出て、そしてぼんやりした湖心のあかみに瞳を落した。
その瞬間であった、或る三角形に引裂れた紙片のようなもののなかに、かれはかれのいた遠い世の雑音と白い多くの建物の町のつらなりが、さまざまな旗や色彩の濃い看板とともに、ちょうど古い都会の見取図のように目にうつった。

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