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みずうみ(26/31)

(637字。目安の読了時間:2分)

「わたしが彼処へ行ってしまったら、既うそれきりになって帰って来ないような気がしますもの。もし然うだったらお父さまはどう成さるおつもり――。」
 娘の眼はその瞬間にやさしい猾(ず)るさを、その可愛げな頬ににっとうかべた。
――眠元朗はちくりと胸を螫(さ)されたような気がした。
かるい不快が伴うた気分だった。
「お前がかえらなかったら――そうだな、お父さまはお前をさがしに出掛けるだろうよ、そして何処かでお前をどんなに困難してもさがし出すかも知れない――しかし此処へつれてかえるかどうかは分らないが、捜すだけは捜す――。」
「そして若し何処にもわたしがいなかったら! どんなにしても捜すことができなかったらどうなさいますの。」
「そんな筈はないお父さまの生涯をその為に潰してもきっと捜し当てて見せる。それでもお前はどこかに隠れ終せるだろうかね。」
 娘は真寂しい父親の顔に日の光が射しているためか、なお一層悲しげにその目をみつめながら、自分の考えていることを言わずにいられなかった。
そのためどんなに父がさびしい思いをするだろうという気はあったが、何んだか言ってみたかった。
「ええ、わたしきっと隠れてしまいますわ。そしてお父さまがもうがっかりしてしまうまでも、ずっとずっと隠れていますわ。
 しまいにお父さまがわたしのことなんかすっかりお諦らめなさいますまで――。」
「いや、おれはそんなことで諦らめたりなんかするものか、きっとさがし出して見せるよ。」

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