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幸福への意志(4/30)

(647字。目安の読了時間:2分)

パオロは学校を換えないことになって、ある老教授のところに預けられた。
 ところが、この状態も長くはつづかなかった。
パオロがある日両親のあとを追って、カルルスルウエに行ったのには、次の事件が、まあ直接の動機ではなかったにしても、ともかくあずかって力があったのである。
 というのは、ある宗教の時間、不意にくだんの教授が、物凄い眼付をして、つかつかと彼のところへ歩み寄るなり、彼の前にあった旧約聖書の下から、紙を一枚引っ張り出した。
それには、左足だけまだ出来上っていない、きわめて女性的な姿が、なんら羞恥の色もなく、現われていたのである。
 こういうわけで、パオロはカルルスルウエに行った。
そして僕等は時々はがきを交換していたが、その交渉も次第次第にまったく絶えてしまった。
 ミュンヘンでふたたび彼に出会ったのは、別れてから五年ばかり経った後だった。
あるうららかな春の午後、アマアリエン街を下って行くと、アカデミイの入口の石段を、だれかが降りて来るのが見えた。
遠くから見ると、まるでイタリア人のモデルかなんぞのようだった。
近づいて見れば、それはまさしく彼だったのである。
 中背で、やせぎすで、ゆたかな黒い髪に帽子をあみだにのせて、青筋の浮いている黄ばんだ顔色で、贅沢だけれども自堕落な身なりで――例えばチョッキのボタンが二つ三つ外れている短かい口髭を軽くひねり上げて……といった様子をしながら、持前のうねるような面倒臭そうな足どりで、彼は僕のほうへやって来た。

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