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幸福への意志(12/30)

(621字。目安の読了時間:2分)

黄ばんだ細面にある黒い眼は、きわめて病的な輝きを帯びていたので、彼が男爵の問に対して、世にもたのもしげな調子で、次のように答えた時には、僕は聞いていて、なんだか気味が悪くなったほどだった。
「いや、実に申しぶんなしです。どうも恐れ入ります。非常に工合がいいのです。」
 ――十五分ばかりして、僕等が席を立った時、男爵夫人は、二日するとまた木曜日だから、例の五時のお茶を忘れないようにと、僕の友だちに注意した。
夫人はそのついでに、僕もまた、その日をどうか覚えていてくれと乞うた。
 往来に出ると、パオロは巻煙草に火をつけた。
「どうだい、」と彼は問うた。
「感想は?」
「いや、非常に感じのいい人たちだね。」と、僕は急いで答えた。
「あの十九の娘さんには敬服させられたくらいだ。」
「敬服させられた?」と、彼は短かい笑い声をあげて、首をそむけた。
「そうか、君は笑うんだね。」と僕はいった。
「そのくせさっきあそこじゃ、時々なんだか君の眼が――秘密なあこがれで曇ったような気がしたよ。でも、僕の勘違いだったんだね。」
 彼はちょっと黙った。
が、やがておもむろに首を振った。
「僕にはわからないね。どういうわけで君が――」
「おい、ごまかすなよ。――問題はもう僕にとっちゃ、ただ、アダ嬢のほうからも……」
 彼はまたちょっと口をつぐんだなり、じっと足もとを見つめていた。
それから小声で、自信ありげにいった。

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