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幸福への意志(15/30)

(610字。目安の読了時間:2分)

完全にいつもの平静を保っていて、両親のほうはパオロの急な旅立ちについて、しきりに遺憾の意を述べたのに、彼女はその時まで、まだ一言も僕の友だちのことを、言い出したことがなかったのである。
 その時僕等は相並んで、ミュンヘン近郊中の、あの最も優雅な箇所を歩いていた。
月光が茂みをもれて、ちらちら輝いた。
そしてしばらくのあいだ、僕等は、そばを泡立ってゆく水のざわめきと同じくらい単調な、ほかの連中の雑談に、無言のまま耳を傾けていた。
 すると令嬢は、不意にパオロのことを話しはじめた。
しかも、きわめて静かな、きわめてしっかりした調子で、話しはじめたのである。
「あなたはずっとお小さい時分から、あのかたのお友だちでいらっしゃるのね。」と令嬢は僕に問うた。
「はあ、そうです。」
「あのかたの秘密も打ち明けられていらっしゃるのでしょう。」
「一番大事なのまで知っているつもりです。僕に話しはしなくても。」
「じゃ、私あなたをお信じ申してもいいわけですわね。」
「どうか、それはお疑いにならないように願いたいものです。」
「それなら申しましょう。」といいながら、令嬢は決然として首をあげた。
「あのかたは私に結婚をお申し込みになりましたの。そしたら両親はおことわりいたしました。あのかたはおからだが悪い、大変悪いと両親は私に申しましてね――でも、お悪くてもなんでも、私あのかたを愛しておりますのよ。

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