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幸福への意志(23/30)

(617字。目安の読了時間:2分)

僕等は美しい晩夏の朝に乗じて、アッピア街道に散策を試み、この古代的な往還を、ずっと郊外までたどって行った後、糸杉の樹立にかこまれた、小さな丘の上で休んだ。
丘からはあの大溝渠のある、明るいカムパニアと、柔かいもやに包まれたアルバノの山々とが、実に美しく見渡された。
 パオロは半分横になって、あごを手で支えたなり、僕と並んで暖かい草生にいこいながら、ものうげな曇った眼で、遠くを眺めていた。
するとまたまた、完全な無感覚から例の通り急に振い起つようにして、彼はこう僕に話しかけた。
「この外気の情調さ。外気の情調というものがすべてなんだよ。」
 僕はなにか決定的なことを答えた。
それなりまた二人とも黙った。
すると突然、まったくやぶから棒に、彼はこういった。
やや押し迫るように、僕のほうへ顔を向けながら、いったのである。
「ねえ君、ほんとは妙に思いやしなかったのかい、僕がまだ相変らず生きているのを。」
 僕ははっと思って、黙っていた。
彼はまた考え込むような顔つきで、遠くのほうを眺めた。
「僕は――妙に思うね。」と彼はおもむろにつづけた。
「実をいうと、毎日それがふしぎでならないんだ。
いったい君は僕のからだがどんな風なんだか、知っているのかい。
――アルジイルにいたフランス人の医者がね、僕にこういったっけ。
『どうしてあなたが、そういつまでも旅行して廻れるんだか、さっぱりわかりませんな。

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