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トカトントン(21/31)

(527字。目安の読了時間:2分)

あたし、あなたに、誤解されてやしないかと思って、あなたに一こと言いたくって、それできょうね、思い切って」
 その時、実際ちかくの小屋から、トカトントンという釘打つ音が聞えたのです。
この時の音は、私の幻聴ではなかったのです。
海岸の佐々木さんの納屋で、事実、音高く釘を打ちはじめたのです。
トカトントン、トントントカトン、とさかんに打ちます。
私は、身ぶるいして立ち上りました。
「わかりました。誰にも言いません。」花江さんのすぐうしろに、かなり多量の犬の糞(ふん)があるのをそのとき見つけて、よっぽどそれを花江さんに注意してやろうかと思いました。
 波は、だるそうにうねって、きたない帆をかけた船が、岸のすぐ近くをよろよろと、とおって行きます。
「それじゃ、失敬」
 空々漠々たるものでした。
貯金がどうだって、俺の知った事か。
もともと他人なんだ。
ひとのおもちゃになったって、どうなったって、ちっともそれは俺に関係した事じゃない。
ばかばかしい。
腹がへった。
 それからも、花江さんは相変らず、一週間か十日目くらいに、お金を持って来て貯金して、もういまでは何千円かの額になっていますが、私には少しも興味がありません。

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