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二銭銅貨(6/30)

(638字。目安の読了時間:2分)

というのは、その旅館の前の、下水の蓋を兼ねた、御影石の敷石の上に、余程注意深い人でなければ、眼にとまらない様な、一つの煙草の吸殻が落ちていた。
そして、何んと、それが刑事の探し廻っていた所の埃及煙草と同じものであったのである。
 さて、この一つの煙草の吸殻から足がついて、さしもの紳士盗賊も遂に獄裡の人となったのであるが、その煙草の吸殻から盗賊逮捕までの径路に一寸探偵小説じみた興味があるので、当時のある新聞には、続き物になって、その時の何某刑事の手柄話が載せられた程であるが――この私の記述も、実はその新聞記事に拠ったものである――私は茲(ここ)には、先を急ぐ為に、極く簡単に結論丈けしかお話している暇がないことを遺憾に思う。
 読者も想像されたであろう様に、この感心な刑事は、盗賊が工場の支配人の部屋に残して行った所の、珍らしい煙草の吸殻から探偵の歩を進めたのである。
そして、各区の大きな煙草屋を殆んど廻り尽したが、仮令おなじ煙草を備えてあっても、埃及の中でも比較的売行きのよくない、FIGARO を最近に売ったという店は極く僅かで、それが悉(ことごと)く、どこの誰それと疑うまでもない様な買手に売られていたのである。
 ところが愈々最終という日になって、今もお話した様に、偶然にも、飯田橋附近の一軒の旅館の前で、同じ吸殻を発見して、実は、あてずっぽうに、その旅館に探りを入れて見たのであるが、それがなんと僥倖(ぎょうこう)にも、犯人逮捕の端緒となったのである。

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