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二銭銅貨(9/30)

(694字。目安の読了時間:2分)

そこで、工場の当の責任者たる支配人は、その金を発見したものには、発見額の一割の賞を懸けるということを発表した。
つまり五千円の懸賞である。
 これからお話しようとする、松村武と私自身とに関する、一寸興味のある物語は、この泥坊事件がこういう風に発展している時に起ったことなのである。

 この話の冒頭にも一寸述べた様に、その頃、松村武と私とは、場末の下駄屋の二階の六畳に、もうどうにもこうにも動きがとれなくなって、窮乏のどん底にのたうち廻っていたのである。
 でも、あらゆるみじめさの中にも、まだしも幸運であったのは、丁度時候が春であったことだ。
これは貧乏人丈けにしか分らない一つの秘密であるが、冬の終から夏の初にかけて、貧乏人は、大分儲(もう)けるのである。
いや、儲けたと感じるのである。
というのは、寒い時丈け必要であった、羽織だとか、下着だとか、ひどいのになると、夜具、火鉢の類に至るまで、質屋の蔵へ運ぶことが出来るからである。
私共も、そうした気候の恩恵に浴して、明日はどうなることか、月末の間代の支払はどこから捻出するか、という様な先の心配を除いては、先ず一寸いきをついたのである。
そして、暫く遠慮して居った銭湯へも行けば、床屋へも行く、飯屋ではいつもの味噌汁と香の物の代りに、さしみで一合かなんかを奮発するといった鹽梅であった。
 ある日のこと、いい心持に※(ゆだ)って、銭湯から帰って来た私が、傷だらけの、毀れかかった一閑張の机の前に、ドッカと坐った時、一人残っていた松村武が、妙な、一種の興奮した様な顔付を以て、私にこんなことを聞いたのである。

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