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二銭銅貨(17/30)

(720字。目安の読了時間:2分)

少くとも、君の頭よりは、俺の頭の方が優れているということじゃないかね」
 二人の多少知識的な青年が、一間の内に生活していれば、其処に、頭のよさについての競争が行われるのは、至極あたり前のことであった。
松村武と私とは、その日頃、暇にまかせて、よく議論を戦わしたものであった。
夢中になって喋っている内に、いつの間にか夜が明けて了う様なことも珍しくなかった。
そして、松村も私も、互に譲らず、「俺の方が頭がいい」ことを主張していたものである。
そこで、松村がこの手柄――それは如何にも大きな手柄であった――を以て、我々の頭の優劣を証拠立てようとした訳である。
「分った、分った。威張るのは抜きにして、どうしてその金を手に入れたか、その筋道を話して見ろ」
「マア急くな。俺は、そんなことよりも、五万円の使途について考えたいと思っているんだ。だが、君の好奇心を充す為に、一寸、簡単に苦心談をやるかな」
 併し、それは決して私の好奇心を充す為ばかりではなくて、寧ろ彼自身の名誉心を満足させる為であったことはいうまでもない。
それは兎(と)も角、彼は次の様に、所謂苦心談を語り出したのである。
私は、それを、心安だてに、蒲団の中から、得意そうに動く彼の顎の辺を見上げて、聞いていた。
「俺は、昨日君が湯へ行った後で、あの二銭銅貨を弄んでいる内に、妙なことには、銅貨のまわりに一本の筋がついているのを発見したんだ。こいつはおかしいと思って、調べて居ると、なんと驚いたことには、あの銅貨が二つに割れたんだ。見給えこれだ」
 彼は、机の抽斗から、その二銭銅貨を取出して、丁度、宝丹の容器を開ける様に、ネジを廻しながら、上下に開いた。

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