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二銭銅貨(18/30)

(756字。目安の読了時間:2分)

見給えこれだ」
 彼は、机の抽斗から、その二銭銅貨を取出して、丁度、宝丹の容器を開ける様に、ネジを廻しながら、上下に開いた。
「これ、ね、中が空虚になっている。銅貨で作った何かの容器なんだ。なんと精巧な細工じゃないか、一寸見たんじゃ、普通の二銭銅貨とちっとも変りがないからね。これを見て、俺は思当ったことがあるんだ。俺はいつか、牢破りの名人が用いるという、鋸(のこぎり)の話を聞いたことがある。それは、懐中時計のゼンマイに歯をつけた、小人島の帯鋸見た様なものを、二枚の銅貨を擦り減らして作った容器の中へ入れたもので、これさえあれば、どんな厳重な牢屋の鉄の棒でも、何なく切破って脱牢するんだ相だ。なんでも元は外国の泥坊から伝ったものだ相だがね。そこで、俺は、この二銭銅貨も、そうした泥坊の手から、どうかして紛れ出したものだろうと想像したんだ。だが、妙なことはそればかりじゃなかった。というのは、俺の好奇心を、二銭銅貨そのものよりも、もっと挑発した所の、一枚の紙切がその中から出て来たんだ。それはこれだ」
 それは、昨夜松村が一生懸命に研究していた、あの薄い小さな紙切であった。
その二寸四方程の薄葉らしい日本紙には、細い字で次の様に、訳の分らぬものが書きつけてあった。
陀、無弥仏、南無弥仏、阿陀仏、弥、無阿弥陀、無陀、弥、無弥陀仏、無陀、陀、南無陀仏、南無仏、陀、無阿弥陀、無陀、南仏、南陀、無弥、無阿弥陀仏、弥、南阿陀、無阿弥、南陀仏、南阿弥陀、阿陀、南弥、南無弥仏、無阿弥陀、南無弥陀、南弥、南無弥仏、無阿弥陀、南無陀、南無阿、阿陀仏、無阿弥、南阿、南阿仏、陀、南阿陀、南無、無弥仏、南弥仏、阿弥、弥、無弥陀仏、無陀、南無阿弥陀、阿陀仏、


「この坊主の寝言見たようなものは、なんだと思う。

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