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二銭銅貨(24/30)

(671字。目安の読了時間:2分)

衆人の目の前に曝(さら)して置いて、しかも誰もがそれに気づかないという様な隠し方が最も安全なんだ。
 恐るべきあいつは、この点に気づいたんだ。と、想像するのだがね。で、玩具の紙幣という巧妙なトリックを考え出した。俺は、この正直堂というのは、多分玩具の札なんかを印刷する店だと想像した。――これも当って居ったがね。――そこへ、彼奴は大黒屋商店という名で、予め玩具の札を註文して置いたんだ。
 近頃、本物と寸分違わない様な玩具の紙幣が、花柳界などで流行している相だ。それは誰かから聞いたっけ。アア、そうだ。君がいつか話したんだ。ビックリ函(ばこ)だとか、本物とちっとも違わない、泥で作った菓子や果物だとか、蛇の玩具だとか、ああしたものと同じ様に、女の子を吃驚させて喜ぶ粋人の玩具だといってね。だから、彼奴が本物と同じ大きさの札を註文した所で、ちっとも疑を受ける筈はないんだ。
 こうして置いて、彼奴は、本物の紙幣をうまく盗み出すと、多分その印刷屋へ忍び込んで、自分の註文した玩具の札と擦り換えて置いたんだ。そうすれば、註文主が受取に行くまでは、五万円という天下通用の紙幣が、玩具の札として、安全に印刷屋の物置に残っている訳だからね。
 これは単に俺の想像かも知れない。だが、随分可能性のある想像だ。俺は兎に角当って見ようと決心した。地図で五軒町という町を探すと、神田区内にあることが分った。そこで愈々(いよいよ)玩具の札を受取に行くのだが、こいつが一寸難しい。というのは、この俺が受取に行ったという痕跡を、少しだって残してはならないんだ。

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