一房の葡萄(7/15)
(474字。目安の読了時間:1分)
僕の胸は宿題をなまけたのに先生に名を指された時のように、思わずどきんと震えはじめました。
けれども僕は出来るだけ知らない振りをしていなければならないと思って、わざと平気な顔をしたつもりで、仕方なしに運動場の隅に連れて行かれました。
「君はジムの絵具を持っているだろう。ここに出し給え。」
そういってその生徒は僕の前に大きく拡げた手をつき出しました。
そういわれると僕はかえって心が落着いて、
「そんなもの、僕持ってやしない。」と、ついでたらめをいってしまいました。
そうすると三四人の友達と一緒に僕の側に来ていたジムが、
「僕は昼休みの前にちゃんと絵具箱を調べておいたんだよ。一つも失くなってはいなかったんだよ。そして昼休みが済んだら二つ失くなっていたんだよ。そして休みの時間に教場にいたのは君だけじゃないか。」と少し言葉を震わしながら言いかえしました。
僕はもう駄目だと思うと急に頭の中に血が流れこんで来て顔が真赤になったようでした。
すると誰だったかそこに立っていた一人がいきなり僕のポッケットに手をさし込もうとしました。
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