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科学の不思議(18/30)

(846字。目安の読了時間:2分)

神様は丁度人間に牝牛をあてがつて下すつたやうに、蟻には木虱をおあてがひになつたのですね。』
『さうだ、ジヤツクや、』とポオル叔父さんは答へました。
『それはみんな神様に対する私達の信仰を増させるのだ。
神様の眼からは何物ものがれるものはないのだ。
考へ深い人には、花の底から蜜を吸ふ甲虫も焼けるやうな瓦から雨垂れを取る苔の房も、神様の慈しみを証拠立てゝゐるのだ。
『其処で、私の話に戻らう。
もし私達の牝牛が村をぶらつきまはつたら、私達は乳をとるのに、遠い牧場まで厄介な旅をしなければならない事になる。
それもきまりのない何処かで見つけ出さなければならないし、見つからない事もあるだらう。
それは私達には大層骨の折れる仕事となり、そして又しよつちう乳を搾る事が出来ない事もあるだらう。
その時に、私達はそれをどう云ふ風に扱つたらいいだらう? 私達は其の牝牛共を囲ゐや小舎の中に入れて、手の届く処におく、蟻も時としては木虱にさうする。
蟻共も此の厄介な日課を時々避ける為めに、其の畜牛共を自分達の草場の中に置く。
だが、そればかりではない。
今仮りに、蟻が其の無数の牛や牧場の為めに、十分大きな草場をつくる事とする。
どうして、例へば今朝私共が見た黒い虱程の数を蟻が囲へるだらうか? そんな途方もない事は出来ない。
ほんのちよつと虱のついた草があるとする。
囲ゐの出来るのはそんな草なのだ。
『蟻はその僅かばかりの木虱を見つけると、小舎を建てゝ、其処に木虱を囲つて、強い太陽の光線を遮ぎる。
そして蟻自身も折々其処へはいつて、牝牛を手の届く処に置いて、ゆつくりと乳を搾る。
その目的で、蟻共は、草の根の上の方がむき出しになる位に、草叢の下の土を移しはじめる。
そのむき出しになつたところが、自然の骨組となつて、其の上へ建物を造るのだ。
それには、此の骨組みの上へ湿つた土の粒を一つ一つ堆み上げて行つて、木虱のゐるところまで円天井のやうなもので、茎を囲む。

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科学の不思議(17/30)

(844字。目安の読了時間:2分)

』とクレエルが叫びました。
『不思議だねえ。
だが、接骨木ばかりが蟻の牝牛共のゐる藪ではないんだよ。
木虱は他のいろんな木にも見つける事が出来るのだ。
キヤベツや薔薇の藪にたかつてゐる木虱は緑色をしてゐるし、接骨木や、豆や、けしや、蕁麻や、柳、ポプラのは黒、樫と薊(あざみ)のは青銅色、夾竹桃や胡桃とか榛(はんのき)とかにつくのは黄色だ。
みんな二つの管を持つてゐて、其れから甘い汁を滲み出させて、お互ひに蟻の御馳走の為めに競争してゐるのだ。』
 クレエルと叔父さんは、家にはいりました。
エミルとジユウルとは今見た事に夢中になつて、木虱を他の木でさがしはじめました。
そして二人は一時間とたゝないうちに、四種類の木虱を見つけました。
そしてどの種類もみんな不公平なく見舞ふ蟻達をもてなしてゐました。
五 牛小舎
 夕方、ポオル叔父さんはまた、蟻の話の続きをはじめました。
丁度その時に、ジヤツクは、何時もするとほりに、牡牛が秣(まぐさ)をたべてゐるかどうか、そして御馳走をたべた仔牛共が無事に母親のそばで眠つてゐるかどうか、と家畜小屋を見まはつて来た処でした。
そして、もう柳の籠を編む仕事がお仕舞ひになつたと云ふので其処に腰を据ゑてゐました。
ジヤツクも蟻の牝牛の本当の訳を知りたいのです。
ポオル叔父さんは、今朝みんなが接骨木の木で何を見たか、又、木虱がどうして甘い滴をその管から滲み出させるか、蟻がどうして、その結構な汁を飲むか、そしてどうしてそれを知つたか、もし必要な時には木虱を撫でさすつてもそれを手に入れる、と云ふ事まで委しく話して聞かせました。
『あなたが私共に話して下さいました事は』とジヤツクが云ひました。
『私のやうに年老つた者でも動かされます。
そして神様が御自分でお創りになつたものにどんなに気をおつけになつてゐるかゞよくわかります。
神様は丁度人間に牝牛をあてがつて下すつたやうに、蟻には木虱をおあてがひになつたのですね。

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科学の不思議(16/30)

(873字。目安の読了時間:2分)

木のやはらかい処や葉の裏には数へる事も出来ない位にびつしりくつつき合つて、真黒なびろうどのやうな虱(しらみ)がしつかりくつついてゐました。
その虱は、毛よりも細い吸盤を皮の中に突込んで、少しも其の位置を変へずに接骨木の樹汁で無事に腹を一杯にしてゐるのです。
其のお尻の先に小さくて穴のある二本の毛を持つてゐます。
その二つの管からは、よく気をつけて見ると砂糖水のやうな小さな滴りが時々漏れ出してゐるのが見えます。
此の黒い虱は木虱と云つて、これが蟻の牝牛なのです。
其の二つの管は牝牛の乳房で、その端から滴る液体が乳なのです。
牝牛が重なり合ふやうにくつついてゐるその真中やその上までも這ひまはつて飢ゑた蟻達は彼方此方の虱の間を行つたり来たりして、其のうまい滴りの出るのを見守つてゐます。
そして、それが見つかればすぐに走つて行てそれを飲んで楽しんでゐます。
そして小さい頭をあげておゝ何てうまいんだらう、おおこれは何んてうまいんだらう! と云つてゐるやうに見えます。
そして、又、他の一口のミルクをさがしに行くのです。
けれども、木虱は乳を吝(お)しみます。
何時もその管から流し出しはしないのです。
其の時には蟻は、乳搾りが其の牝牛の乳にするやうに、やさしく木虱の背中を幾度も撫でさすつてやります。
同時に触角といふ其の細いしなやかな小さな角でそつと胃を叩いたり、乳管を擦つたりします。
此の蟻の仕事は大抵うまくゆくのです。
此のおとなしいやり方で、どうして成就しない事がありませう! 木虱は負けてしまひます。
そして一とたらしの滴を見せます。
それはすぐに舐(な)めつくされて仕舞ふのです。
けれども、蟻はその小さな腹がまだ一杯にはならないと云ふやうに、他の木虱を撫でに行つてしまひます。
 ポオル叔父さんは枝を離しました。
枝は跳ね返つてもとの位置に返りました。
乳搾りも、牛も、牧場も忽ち接骨木の茂みの頂上に行つてしまひました。
『まあ、不思議ですのねえ、叔父さん。』とクレエルが叫びました。

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科学の不思議(15/30)

(858字。目安の読了時間:2分)

その蟻共は時々道で立ち止つて他の蟻とどう上つて行くかについて相談してゐるやうに見えます。
そして又すぐに一層熱心に這ひ上つて行きます。
降りて来る蟻達はゆつくりとした様子で小さな足どりで来ます。
そして自分から足を佇(と)めて休んだり、上つて来る蟻に忠告をしてやつたりします。
誰れでも上つて行く者と降りる者の熱心さのちがふ原因は容易に察する事が出来ます。
降りて来る蟻達の胃袋はふくれて、重くて、不格好な程一杯になつてゐます。
上つて行く蟻達の胃袋はうすくてぺちやんこにたゝまつて、ひもじさに啼(な)いてゐます。
それを間違ひつこはありません。
降りる蟻達は、沢山な御馳走をたべて、のろのろと家に帰つて行くのです。
上る方の蟻は、からつぽの胃袋を一ぱいにしようとする熱心さで、茂みの中を襲ふて、おなじ御馳走の処に走つて行くのです。
『蟻達は接骨木の上で、胃袋を一杯にする何を見つけたのです?』とジユウルが尋ねました。
『其処にゐるのなんか、やつと体と一しよに胃袋を引きずつてゐるぢやありませんか。
大食ひだなあ。』
『大食ひ? さうぢやない。』とポオル叔父さんはジユウルの云つた事を直しました。
『あの蟻達は、もつとえらい目的でたらふく食ふのだ。
此の接骨木の上の方に沢山の牝牛がゐるのだ。
降りて来る蟻達は丁度今其の牝牛から乳を搾つて来た処なのだよ。
ふくれたお腹をひきづつて行くのは、蟻塚殖民地に共同の食物のミルクを運んでゐるのだ。
では、其の牝牛から乳を搾る処を見ようかね。
けれども断つておくがね、其の牝牛の群を人間のと同じやうに思つてはいけないよ。
其の牧場は一枚の葉つぱで用に足りるのだからね。』
 ポオル叔父さんは接骨木の枝の先きを、子供達に見える位まで引き下ろしました。
そしてみんなで、よく気をつけて見ました。
木のやはらかい処や葉の裏には数へる事も出来ない位にびつしりくつつき合つて、真黒なびろうどのやうな虱(しらみ)がしつかりくつついてゐました。

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科学の不思議(14/30)

(831字。目安の読了時間:2分)

アンブロアジヌお婆あさんはしばらく糸車をまはしませんでした。
又、ジヤツクお爺さんも柳を編むのをやめました。
ジユウルもクレエルも眼を円くしました。
みんなそれを冗談だと思つたのです。
『いゝえ、坊や、私は冗談なんか云いやしないよ。
私は本当のお話をお伽話なんかに変へやしないよ。
乳搾りも牝牛も、みんな本当にあるのだよ。
けれども、其の問ひを説明する、此の話のつゞきは、明日の晩までお預りにしよう。』
 エミルはジユウルを隅つこの方に引つぱつて行つて云ひました。
『叔父さんの本当の話は大変面白いのね。
アンブロアジヌお婆さんのお伽話よりもよつぽど面白いや。
あの不思議な牝牛の話がすつかり聞ければ、僕はもうノアの箱船なんかどうなつてもいゝな。』
四 牝牛
 次の日にエミルは、眼をさますかさまさないうちから、蟻の牝牛の事を考へはじめました。
『叔父さんに、あの話の続きを今朝してくれるやうに頼まなくつちや。』
 エミルはジユウルに云ひました。
そして大急ぎで叔父さんを見に行きました。
『アハ!』叔父さんは二人の頼みを聞くと大きな声を出しました。
『蟻の牝牛の話がそんなにお前達の気に入つたかい。
では、お前達にその話をして聞かすよりもつといゝ事をしよう。
お前達にそれを見せてあげよう。
まづ、クレエルをお呼び。』
 クレエルは大急ぎで来ました。
叔父さんはみんなを庭の接骨木の茂つた下に連れて行きました。
そしてみんなは次のやうな事を見たのです。
 其の茂みは花で真白でした。
蜂や、蠅や、甲虫や、蝶が、ねむくなるやうな微かな音をたてゝ彼方此方の花から花へ飛びまはつてゐました。
接骨木の幹では、その木の皮の筋の間を沢山の蟻が、上つたり降つたりして這つてゐました。
そして上る蟻の方がずつと一生懸命でした。
その蟻共は時々道で立ち止つて他の蟻とどう上つて行くかについて相談してゐるやうに見えます。

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科学の不思議(13/30)

(834字。目安の読了時間:2分)

麦殻は地下の町の入口まで行つた。
が、其の麦殻は今は簡単には穴の中にはいらないやうになつた。
その麦殻はゆがんでゐる。
穴の縁とは反対の方に傾いてゐるのだ。
手伝ひ共は押し上げる。
十ぺんも二十ぺんも一つ骨折りをやる。
が、駄目だ。
で、其の二匹か、或は三匹とも、機械師達のやうに、隊を解散して、此のどうしても勝てない不可抗力の原因をさぐりに出かける。
故障はすぐに解つた。
蟻共は其の麦殻をすつかり持ち上げなければならないのだ。
麦殻はその一端が穴の口から突き出す位までほんの少しの間をひつぱられる。
それから、其の突き出した方の端を一匹の蟻が捉へると同時に他の蟻共は地面についてゐる方の端を持ち上げる。
すると、其の麦殻はでんぐり返つて穴の中に落ちる。
しかし、大工達がそれを側面にくつつけるまでは、用心深く捉んでゐるのだ。
お前達はたぶん土を運んでゐるほかの坑夫達がその不思議な機械的な働きを面白がつてその前に立ち止つたらうと考へるだらうね。
だが蟻はちつともそんな暇は持たないんだよ。
みんな其の坑夫達は、大工仕事とは別に、掘り出した材料の土の荷物と一しよにずん/\通つて行くのだ。
蟻共の熱心さは、梁を動かす下にでもびつこになるのもかまはずに大胆にすべり込んで行く位だ。
『誰れでも、そんなに働いてはたべなければゐられない。
激しい運動程食慾を起さすものはない。
其処で乳しぼりの蟻は列をぬけて行つて、乳を持つた牝牛から乳を搾つて労働者の蟻達にくばるのだ。』
 すると、エミルがふき出しました。
『それは、きつと本当ぢやないんでせう?』と叔父さんに云ひました。
『乳搾りの蟻だの、牝牛だの、乳だなんて! やつぱりアンブロアジヌお婆あさんが話すやうなお伽話です。』
 ポオル叔父さんの使つた妙な云ひまはしに驚いたのはエミル一人ではありませんでした。
アンブロアジヌお婆あさんはしばらく糸車をまはしませんでした。

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科学の不思議(12/30)

(846字。目安の読了時間:2分)

『地面の下で坑道を掘りさへすれば、それで蟻の仕事はおしまひかと云ふと、決してさうではない。
弱い処を固めて地辷りを防がなければならないし、柱で円天井を支へたり、仕切りもつくらねばならない。
大勢の坑夫達は其の時には大工達の手伝ひになるのだ。
最初には蟻塚から土を運び出す。
その次ぎには建築材料を持ち込むのだ。
其の材料と云ふのは、建物に似合ひな、梁だとか、小さな枕木とかいふ風な材木の切れだ。
ほんの小ちやな藁屑でも、天井のしつかりした梁になるし、よごれた葉つぱの茎でも強い円柱になるのだ。
大工達は、近所の森とも云ふやうな草叢の中を探険して其等の木切れを選ぶのだ。
『いゝものが見つかつた! 麦粒の殻だ。
それは大変うすくつて汚れてゐる。
が、しつかりしてゐる。
それは下の方で蟻達がつくつてゐる建物の仕切りには上等の板がつくれるだらう。
けれども重いのだ。
途方もなく重いのだ。
蟻がそれを見つけ出す。
そして六本の自分の足で剛情に後の方にひつぱらうとする。
駄目だ。
重い塊は動かない。
けれども蟻はその小さい体にありつたけの力でもう一度ひつぱつて見る。
麦殻はほんの一寸働くだけだ。
で、蟻は自分の力に及ばないとあきらめる。
そして行つてしまふ。
ではその麦の殻を棄てたのだらうか? どうして、どうして! 其の時は一匹でも、其の一匹は必ずその事を仕遂げねばおかぬ辛抱強さを持つてゐるのだ。
だから、その行つてしまつた蟻は其処に二匹の手伝ひを連れて引きかへして来る。
そして其の一匹はすぐに麦の殻の前の方を捉へる。
他の者達は大急ぎでその両側にまはる。
そしてその麦殻を転がす。
前へ進んで行く。
うまくゆきさうだ。
其処は歩きにくい。
けれども蟻達は此の荷物を担いだ蟻に逢ふと、みんな道を譲るのだ。
『けれども、まだ、すつかり仕事をやり遂げるのに困難がなくなつたと云ふ訳にはゆかない。
麦殻は地下の町の入口まで行つた。

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