ブンゴウメール公式ブログ

青空文庫の作品を1ヶ月で読めるように毎日小分けでメール配信してくれるサービス「ブンゴウメール」のブログです

三十年後の東京(21/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (505字。目安の読了時間:2分) お母さんは一度心臓病で死にかけたんだけれど、人工心臓をつけていただいてこのとおり丈夫になったんですよ」 「人工心臓ですって」 「見えるでしょう。お母さんは背中に背嚢のようなものを背おっているでし…

三十年後の東京(20/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (522字。目安の読了時間:2分) 地面の中にもぐっていて、青空が見えるはずがない」 正吉は、うっかり思いまちがいしていたことに気がついて、顔があかくなった。 しかし、それほどほんものの秋空に見えるのだった。 区長は、正吉を、りっぱ…

三十年後の東京(19/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (508字。目安の読了時間:2分) しかし母は、もう死んでいますよ」 「いや、そのことはやがて分りましょう。これから町を見物しながら、そちらへご案内してみましょう」 人工心臓 正吉は、区長たちからなぐさめられて、すこし元気をとりもど…

三十年後の東京(18/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (535字。目安の読了時間:2分) ちょうど布ぎれのないときでしたからぼくのお母さんは、それを揃えるのにずいぶん苦労しましたよ。――ああ、そういえば、ぼくのお母さんは……」 と、正吉は声をくもらせて、はなをすすった。 「どうしました、…

三十年後の東京(17/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (510字。目安の読了時間:2分) たとえば空気は念入りに浄化され、有害なバイキンはすっかり殺されてから、この地下へ送りこまれます。また方々に浄化塔があって、中でもって空気をきれいにしています。ごらんなさい、むこうに美しい広告塔…

三十年後の東京(16/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (529字。目安の読了時間:2分) 昔は六大都市といったり、そのほか中小都市がたくさんありましたが、いまは地上にはそんなものは残っていません。しかし、地の中のにぎわいは大したものですよ。これからそっちへご案内いたしましょう」 正吉…

三十年後の東京(15/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (523字。目安の読了時間:2分) わが地球人類の中の悪いやつが、ひそかに原子弾をかくして持っていましてね、それを飛行機につんで持って来て、空からおとすのです」 「どうしてでしょうか」 「どうしてでしょうかと、おっしゃいますか。つ…

三十年後の東京(14/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (610字。目安の読了時間:2分) そのために、われわれ地球人類の力は弱くなり、いざ星人がやってきたときには防衛力が弱くて、かんたんに彼らの前に手をつき、頭をさげなければならないだろう。――それをおもえば、今われわれ人類の国と国と…

三十年後の東京(13/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (588字。目安の読了時間:2分) 「で、戦争は起ったのですか、それとも……」 「もう一つの重大なことがらは」 と区長は正吉の質問にはこたえず、さっきの続きを話した。 「連合科学協会員は最近天空においておどろくべき観測をした。それはど…

三十年後の東京(12/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (504字。目安の読了時間:2分) その後また大きな戦争がおこりかけましてね――もちろん日本は関係がないのですがね――そのために、おびただしい原子爆弾が用意されました。そのとき世界の学者が集って組織している連合科学協会というのがあっ…

三十年後の東京(11/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (537字。目安の読了時間:2分) あれは何ですか」 林と草原の間に、妙にねじれた塔や、低い緑色の鍋をふせたようなものが見える。 「あのまるいものは、住宅の屋上になっています。塔は、原子弾が近づくのを監視している警戒塔です。すべて…

三十年後の東京(10/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (536字。目安の読了時間:2分) 何にのるのですか」 「動く道路です。そうそう、あなたの住んでいた三十年前には、動く道路はなかったんでしょうね。そのころは電車や自動車ばかりだったんでしょう。今はそんなものは、ほとんどなくなりまし…

三十年後の東京(9/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (471字。目安の読了時間:1分) 例の四人組の外に、東京区長のカニザワ氏と大学病院長のサクラ女史が少年をとりまいていたが、少年は三十年前の話をいろいろとした。 そして三十年後の東京がどんなに変っているか、あまりに変っているのでそ…

三十年後の東京(8/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (523字。目安の読了時間:2分) かわりはてた銀座 「二十年たったら、世の中がどんなに変っているか、それを見たかったから、こんな冒険をしたんです」 と、小杉少年は、まわりの人たちに話した。 「ああ、お話中しつれいですが、じつは二十…

三十年後の東京(7/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (569字。目安の読了時間:2分) これは、中からは外が見えないが、反対に外から中はよく見えるものだった。 こんなついたてを用いたわけは、金属球の中から出て来るはずの小杉正吉少年を、あまりたくさんの見物人のためにびっくりさせないた…

三十年後の東京(6/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (509字。目安の読了時間:2分) 五トンぐらいのものがらくにもちあがるヘリコプター(竹とんぼ式飛行機)を一台至急ここまでまわしてくれるように、航空商会の千代田支店に頼んだ。 二十分ほどすると、空から一台のヘリコプターがゆうゆうと…

三十年後の東京(5/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (547字。目安の読了時間:2分) この球を発見せられたる人は、この球が封印したるときより二十年以上たっていることをたしかめた後、この少年を冷凍球の中からとりだしていただきたい。 それはむずかしいことではない。 この底のBとしるし…

三十年後の東京(4/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (570字。目安の読了時間:2分) もっと上にあったのが、ころがりだして、ここまで来て停ったんだと思う」 「火星からなげてよこしたものじゃないか。開けると、中から火星人の手紙かなんか入っているんじゃない?」 「火星からじゃないよ。…

三十年後の東京(3/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (463字。目安の読了時間:1分) みんな何となくおそろしいが、しかし自分たちで発見したものだから、ぜひその正体をたしかめたかった。 ようやくそばへ近よることが出来た。 沢のまん中に、直径三メートルもあると思われる金属球が、でんと…

三十年後の東京(2/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (520字。目安の読了時間:2分) 地図でみると、どうしてもここは、うばガ谷のはずなんだが?」 「でも、へんよ。地図からはかって、ここはどうしてもうばガ谷よ。この地図をごらんなさい。ほら、この岩」 「なるほどなあ、あれはたしかに三…

三十年後の東京(1/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (484字。目安の読了時間:1分) 万年雪とける 昭和五十二年の夏は、たいへん暑かった。 ことに七月二十四日から一週間の暑さときたら、まったく話にならないほどの暑さだった。 涼しいはずの信州や上越の山国地方においてさえ、夜は雨戸をあ…

僕の孤独癖について(8/8) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (626字。目安の読了時間:2分) ニイチェは読書を「休息」だと言つたが、今の僕にとつて、交際はたしかに一つの「休息」である。 人と話をして居る間だけは、何も考へずに愉快で居られるからである。 煙草や酒と同じく、交際もまた一つの「…

僕の孤独癖について(7/8) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (746字。目安の読了時間:2分) 僕は一体話題のすくない人間であり、自己の狭い主観的興味に属すること以外、一切話することの出来ない質の人間だから、先方で話題を持ちかけて来ない以上は、幾時間でも黙つてゐる外はない。 だから客の方で…

僕の孤独癖について(6/8) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (710字。目安の読了時間:2分) かうした環境に育つた僕は、家で来客と話すよりも、こつちから先方へ訪ねて行き、出先で話すことを気楽にして居る。 それに僕は神経質で、非常に早く疲れ易い。 気心の合つた親友なら別であるが、さうでもな…

僕の孤独癖について(5/8) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (702字。目安の読了時間:2分) だがそれだけまた友が恋しく、稀れに懐かしい友人と逢つた時など、恋人のやうに嬉しく離れがたい。 「常に孤独で居る人間は、稀れに逢ふ友人との会合を、さながら宴会のやうに嬉しがる」とニイチェが言つてる…

僕の孤独癖について(4/8) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (667字。目安の読了時間:2分) 人と人との交際といふことは、所詮相互の自己抑制と、利害の妥協関係の上に成立する。 ところで僕のやうな我がまま者には、自己を抑制することが出来ない上に、利害交換の妥協といふことが嫌ひなので、結局ひ…

僕の孤独癖について(3/8) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (686字。目安の読了時間:2分) この不思議な厭な病気ほど、僕を苦しめたものはない。 僕は二十八歳の時に、初めてドストイェフスキイの小説「白痴」をよんで吃驚した。 といふのは、その小説の主人公である白痴の貴族が、丁度その僕と同じ…

僕の孤独癖について(2/8) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (690字。目安の読了時間:2分) 人目を忍び、露見を恐れ、絶えずびくびくとして逃げ廻つてゐる犯罪者の心理は、早く既に、子供の時の僕が経験して居た。 その上僕は神経質であつた。 恐怖観念が非常に強く、何でもないことがひどく怖かつた…

僕の孤独癖について(1/8) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (670字。目安の読了時間:2分) 僕は昔から「人嫌ひ」「交際嫌ひ」で通つて居た。 しかしこれには色々な事情があつたのである。 もちろんその事情の第一番は、僕の孤独癖や独居癖やにもとづいて居り、全く先天的気質の問題だが、他にそれを…

月の詩情(6/6) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (578字。目安の読了時間:2分) 昔の人がそんなにも月に心をひかれたのは、彼等の住んでゐる夜の地上が、甚だ閑寂として居たからである。 暗く寂しい夜の曠野に、遠く輝やく灯を見る時ほど、悲しくなつかしい思ひをすることはない。 行灯や…