ブンゴウメール公式ブログ

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老妓抄(17/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (608字。目安の読了時間:2分) 顔は少し横向きになっていたので、厚く白粉をつけて、白いエナメルほど照りを持つ頬から中高の鼻が彫刻のようにはっきり見えた。 老妓は船の中の仕切りに腰かけていて、帯の間から煙草入れとライターを取出し…

老妓抄(16/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (607字。目安の読了時間:2分) 生れてこんなこと始めてだ」 「麦とろの食べ過ぎかね」老妓は柚木がよく近所の麦飯ととろろを看板にしている店から、それを取寄せて食べるのを知っているものだから、こうまぜっかえしたが、すぐ真面目になり…

老妓抄(15/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (646字。目安の読了時間:2分) 「おまえさんは、この頃、どうかおしかえ」 と老妓はしばらく柚木をじろじろ見ながらいった。 「いいえさ、勉強しろとか、早く成功しろとか、そんなことをいうんじゃないよ。まあ、魚にしたら、いきが悪くな…

老妓抄(14/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (556字。目安の読了時間:2分) …中の皺を足の裏へ、括って溜めているという評判だが、あんたなんかまだその必要はなさそうだなあ」 老妓の眼はぎろりと光ったが、すぐ微笑して 「あたしかい、さあ、もうだいぶ年越の豆の数も殖えたから、前…

老妓抄(13/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (672字。目安の読了時間:2分) そしてそれだけで自分の慰楽は充分満足だった。 柚木は二三度職業仲間に誘われて、女道楽をしたこともあるが、売もの、買いもの以上に求める気は起らず、それより、早く気儘の出来る自分の家へ帰って、のびの…

老妓抄(12/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (570字。目安の読了時間:2分) 実際専門家から見ればいいものなのだが、一向社会に行われない結構な発明があるかと思えば、ちょっとした思付きのもので、非常に当ることもある。 発明にはスペキュレーションを伴うということも、柚木は兼ね…

老妓抄(11/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (575字。目安の読了時間:2分) …は二三度膝を上げ下げしたが 「結婚適齢期にしちゃあ、情操のカンカンが足りないね」 「そんなことはなくってよ、学校で操行点はAだったわよ」 みち子は柚木のいう情操という言葉の意味をわざと違えて取っ…

老妓抄(11/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (575字。目安の読了時間:2分) …は二三度膝を上げ下げしたが 「結婚適齢期にしちゃあ、情操のカンカンが足りないね」 「そんなことはなくってよ、学校で操行点はAだったわよ」 みち子は柚木のいう情操という言葉の意味をわざと違えて取っ…

老妓抄(10/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (737字。目安の読了時間:2分) 「でも、男があんまり細かいことに気のつくのは偉くなれない性分じゃないのかい」 「僕だって、根からこんな性分でもなさそうだが、自然と慣らされてしまったのだね。ちっとでも自分にだらしがないところが眼…

老妓抄(9/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (603字。目安の読了時間:2分) 生れて始めて、日々の糧の心配なく、専心に書物の中のことと、実験室の成績と突き合せながら、使える部分を自分の工夫の中へ鞣し取って、世の中にないものを創り出して行こうとする静かで足取りの確かな生活…

老妓抄(8/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (691字。目安の読了時間:2分) 「なら、早くそれをやればいいじゃないか」 柚木は老妓の顔を見上げたが 「やればいいじゃないかって、そう事が簡単に……(柚木はここで舌打をした)だから君たちは遊び女といわれるんだ」 「いやそうでないね…

老妓抄(8/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (691字。目安の読了時間:2分) 「なら、早くそれをやればいいじゃないか」 柚木は老妓の顔を見上げたが 「やればいいじゃないかって、そう事が簡単に……(柚木はここで舌打をした)だから君たちは遊び女といわれるんだ」 「いやそうでないね…

老妓抄(7/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (532字。目安の読了時間:2分) 名前は柚木といった。 快活で事もなげな青年で、家の中を見廻しながら「芸者屋にしちゃあ、三味線がないなあ」などと云った。 度々来ているうち、その事もなげな様子と、それから人の気先を[#「気先を」は…

老妓抄(6/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (562字。目安の読了時間:2分) 水を口から注ぎ込むとたちまち湯になって栓口から出るギザーや、煙管の先で圧すと、すぐ種火が点じて煙草に燃えつく電気莨盆や、それらを使いながら、彼女の心は新鮮に慄えるのだった。 「まるで生きものだね…

老妓抄(5/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (716字。目安の読了時間:2分) 芸者屋をしている表店と彼女の住っている裏の蔵附の座敷とは隔離してしまって、しもたや風の出入口を別に露地から表通りへつけるように造作したのも、その現われの一つであるし、遠縁の子供を貰って、養女に…

老妓抄(4/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (605字。目安の読了時間:2分) おまえさんたち」と小そのは総てを語ったのちにいう、「何人男を代えてもつづまるところ、たった一人の男を求めているに過ぎないのだね。いまこうやって思い出して見て、この男、あの男と部分々々に牽かれる…

老妓抄(3/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (552字。目安の読了時間:2分) 若い芸妓たちは、とうとう髪を振り乱して、両脇腹を押え喘いでいうのだった。 「姐さん、頼むからもう止してよ。この上笑わせられたら死んでしまう」 老妓は、生きてる人のことは決して語らないが、故人で馴…

老妓抄(2/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (602字。目安の読了時間:2分) だが、彼女は職業の場所に出て、好敵手が見つかると、はじめはちょっと呆けたような表情をしたあとから、いくらでも快活に喋舌り出す。 新喜楽のまえの女将の生きていた時分に、この女将と彼女と、もう一人新…

【お詫びとお知らせ】ブンゴウメールの配信遅延について

いつもブンゴウメールをご利用ありがとうございます。 本日システム障害により、9時以前に配信予定だった無料版および有料版のメール配信で遅延が生じておりました。申し訳ありません! 現在システムは復旧しており、本日これ以降に配信されるチャネルは通常…

老妓抄(1/30) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (539字。目安の読了時間:2分) 平出園子というのが老妓の本名だが、これは歌舞伎俳優の戸籍名のように当人の感じになずまないところがある。 そうかといって職業上の名の小そのとだけでは、だんだん素人の素朴な気持ちに還ろうとしている今…

よだかの星(9/9) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (581字。目安の読了時間:2分) 夜だかは、どこまでも、どこまでも、まっすぐに空へのぼって行きました。 もう山焼けの火はたばこの吸殻のくらいにしか見えません。 よだかはのぼってのぼって行きました。 寒さにいきはむねに白く凍りました…

よだかの星(8/9) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (615字。目安の読了時間:2分) 「北の青いお星さま、あなたの所へどうか私を連れてって下さい。」 大熊星はしずかに云いました。 「余計なことを考えるものではない。少し頭をひやして来なさい。そう云うときは、氷山の浮いている海の中へ…

よだかの星(7/9) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (634字。目安の読了時間:2分) 一本の若いすすきの葉から露がしたたったのでした。 もうすっかり夜になって、空は青ぐろく、一面の星がまたたいていました。 よだかはそらへ飛びあがりました。 今夜も山やけの火はまっかです。 よだかはそ…

よだかの星(6/9) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (600字。目安の読了時間:2分) みじかい夏の夜はもうあけかかっていました。 羊歯の葉は、よあけの霧を吸って、青くつめたくゆれました。 よだかは高くきしきしきしと鳴きました。 そして巣の中をきちんとかたづけ、きれいにからだ中のはね…

よだかの星(5/9) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (630字。目安の読了時間:2分) 泣きながらぐるぐるぐるぐる空をめぐったのです。 (ああ、かぶとむしや、たくさんの羽虫が、毎晩僕に殺される。そしてそのただ一つの僕がこんどは鷹に殺される。それがこんなにつらいのだ。ああ、つらい、つ…

よだかの星(4/9) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (598字。目安の読了時間:2分) それにああ、今度は市蔵だなんて、首へふだをかけるなんて、つらいはなしだなあ。) あたりは、もううすくらくなっていました。 夜だかは巣から飛び出しました。 雲が意地悪く光って、低くたれています。 夜…

よだかの星(3/9) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (653字。目安の読了時間:2分) 市蔵というんだ。市蔵とな。いい名だろう。そこで、名前を変えるには、改名の披露というものをしないといけない。いいか。それはな、首へ市蔵と書いたふだをぶらさげて、私は以来市蔵と申しますと、口上を云…

よだかの星(2/9) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (614字。目安の読了時間:2分) それによだかには、するどい爪もするどいくちばしもありませんでしたから、どんなに弱い鳥でも、よだかをこわがる筈はなかったのです。 それなら、たかという名のついたことは不思議なようですが、これは、一…

よだかの星(1/9) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (640字。目安の読了時間:2分) よだかは、実にみにくい鳥です。 顔は、ところどころ、味噌をつけたようにまだらで、くちばしは、ひらたくて、耳までさけています。 足は、まるでよぼよぼで、一間とも歩けません。 ほかの鳥は、もう、よだか…

どんぐりと山猫(11/11) - ブンゴウメール

ブンゴウメール (586字。目安の読了時間:2分) 一升にたりなかつたら、めつきのどんぐりもまぜてこい。はやく。」 別当は、さつきのどんぐりをますに入れて、はかつて叫びました。 「ちやうど一升あります。」 山ねこの陣羽織が風にばたばた鳴りました。 …