ブンゴウメール公式ブログ

青空文庫の作品を1ヶ月で読めるように毎日小分けでメール配信してくれるサービス「ブンゴウメール」のブログです

【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (19/30)

(556字。目安の読了時間:2分) 私はたまらなくなって、雨戸を開き、障子を開けた。 石榴の葉が、ツンツン豆の葉のように光って、山の上に盆のような朱い月が出ている。 肌の上を何かついと走った。 「どぎゃん、したかアい!」 思わず私は声をあげて下へ叫…

【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (18/30)

(583字。目安の読了時間:2分) 「ま、勉強せい、明日は連れて行ってやる」 学校に行けることは、不安なようで嬉しい事であった。 その晩、胸がドキドキして、私は子供らしく、いつまでも瞼(まぶた)の裏に浮んで来る白い数字を数えていた。 十二時頃でで…

【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (17/30)

(565字。目安の読了時間:2分) 「人の足折って、知らん顔しちょるもんがよオ」 「金を持っちょるけに、かなわんたい」 「階下のおじさんな、馬鹿たれか?」 「何ば云よっとか!」 父は風琴と弁当を持って、一日中、「オイチニイ オイチニイ」と、町を流し…

【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (16/30)

(636字。目安の読了時間:2分) 「尾の道の町に、何か力があっとじゃろ、大阪までも行かいでよかった」 「大阪まで行っとれば、ほんのこて今頃は苦労しよっとじゃろ」 この頃、父も母も、少し肥えたかのように、私の眼にうつった。 私は毎日いっぱい飯を食…

【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (15/30)

(573字。目安の読了時間:2分) 二階の縁の障子をあけると、その石榴の木と井戸が真下に見えた。 井戸水は塩分を多分に含んで、顔を洗うと、ちょっと舌が塩っぱかった。 水は二階のはんど甕(がめ)の中へ、二日分位汲み入れた。 縁側には、七輪や、馬穴(…

【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (14/30)

(582字。目安の読了時間:2分) 白か銭ばたくさん持っちょって、何も買うてやらんげに思うちょるが、宿屋も払うし、薬の問屋へも払うてしまえば、あの白か銭は、のうなってしまうがの、早よ寝て、早よ起きい、朝いなったら、白かまんまいっぱい食べさすッで…

【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (13/30)

(667字。目安の読了時間:2分) 母は、私が大きい声で、すらすらと本を読む事が、自慢ででもあるのであろう。 「ふん、そうかや」と、度々優しく返事をした。 「百姓は馬鹿だな、尺取虫に土瓶を引っかけるてかい?」 「尺取虫が木の枝のごつあるからじゃろ…

【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (12/30)

(541字。目安の読了時間:2分) お父さんな、怒んなさって、風琴ば海さ捨てる云いなはるばい」 「また、何、ぐずっちょるとか!」 父は、豆手帳の背中から鉛筆を抜いて、薬箱の中と照し合せていた。 5 夜になると、夜桜を見る人で山の上は群った蛾(が)の…

【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (11/30)

(565字。目安の読了時間:2分) 私の丼の中には三角の油揚が這入っていた。 「どうしてお父さんのも、おッ母さんのも、狐(きつね)がはいっとらんと?」 「やかましいか! 子供は黙って食うがまし……」 私は一片の油揚を父の丼の中へ投げ入れてニヤッと笑っ…

【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (10/30)

(618字。目安の読了時間:2分) 「ぬくうなった、風がぬるぬるしよる」 「小便がしたか」 「かまうこたなか、そこへせいよ」 桟橋の下にはたくさん藻や塵芥(じんかい)が浮いていた。 その藻や塵芥の下を潜って影のような魚がヒラヒラ動いている。 帰って…

【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (9/30)

(580字。目安の読了時間:2分) その広場を囲んで、露店のうどん屋が鳥のように並んで、仲士達が立ったまま、つるつるとうどんを啜っていた。 露店の硝子箱(ガラスばこ)には、煎餅や、天麩羅がうまそうであった。 私は硝子箱に凭(もた)れて、煎餅と天麩…

【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (8/30)

(586字。目安の読了時間:2分) 「ええ――子宮、血の道には、このオイチニイの薬ほど効くものはござりませぬ」 私は材木の上に群れた子供達を押しのけると、風琴を引き寄せて肩に掛けた。 「何しよっと! わしがとじゃけに……」 子供達は、断髪にしている私の…

【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (7/30)

(608字。目安の読了時間:2分) 町の屋根の上には、天幕がゆれていて、桜の簪(かんざし)を差した娘達がゾロゾロ歩いていた。 「ええ――ご当地へ参りましたのは初めてでござりますが、当商会はビンツケをもって蟇(がま)の膏薬かなんぞのようなまやかしも…

【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (6/30)

(599字。目安の読了時間:2分) 遠いとこさ、一人で行ってしまいたか」 「お前は、めんめさえよければ、ええとじゃけに、バナナも食うつろが、蓮根も食いよって、富限者の子供でも、そげんな食わんぞな!」 「富限者の子供は、いつも甘美かもの食いよっとじ…

【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (5/30)

(578字。目安の読了時間:2分) 「汽車へ乗ったら、またよかもの食わしてやるけに……」 「いんにゃ、章魚が食いたか!」 「さっち、そぎゃん、困らせよっとか?」 母は房のついた縞(しま)の財布を出して私の鼻の上で振って見せた。 「ほら、これでも得心の…

【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (4/30)

(596字。目安の読了時間:2分) 肋骨のように、胸に黄色い筋のついた憲兵の服を着た父が、風琴を鳴らしながら「オイチニイ、オイチニイ」と坂になった町の方へ上って行った。 母は父の鳴らす風琴の音を聞くとうつむいてシュンと鼻をかんだ。 私は呆(ぼ)ん…

【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (3/30)

(557字。目安の読了時間:2分) 私達は、しばらく、その男達が面白い身ぶりでかまぼこをこさえている手つきに見とれていた。 「あにさん! 日の丸の旗が出ちょるが、何事ばしあるとな」 骨を叩く手を止めて、眼玉の赤い男がものうげに振り向いて口を開けた…

【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (2/30)

(604字。目安の読了時間:2分) 「この町は、祭でもあるらしい、降りてみんかやのう」 母も経文を合財袋にしまいながら、立ちあがった。 「ほんとに、綺麗な町じゃ、まだ陽が高いけに、降りて弁当の代でも稼ぎまっせ」 で、私達三人は、おのおのの荷物を肩…

【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (1/30)

(541字。目安の読了時間:2分) 1 父は風琴を鳴らすことが上手であった。 音楽に対する私の記憶は、この父の風琴から始まる。 私達は長い間、汽車に揺られて退屈していた、母は、私がバナナを食んでいる傍で経文を誦(ず)しながら、泪(なみだ)していた…

【ブンゴウメール】人間椅子 (31/31)

(512字。目安の読了時間:2分) そこには、さっきの無気味な手紙と寸分違わぬ筆癖をもって、彼女の名宛が書かれてあったのだ。 彼女は、長い間、それを開封しようか、しまいかと迷っていた。 が、とうとう、最後にそれを破って、ビクビクしながら、中身を読…

【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (31/31)

(594字。目安の読了時間:2分) 外の人達の様に、私を気違いだとはおっしゃいませんでしょうね。アア、それで私も話甲斐があったと申すものですよ。どれ、兄さん達もくたびれたでしょう。それに、あなた方を前に置いて、あんな話をしましたので、さぞかし恥…

【ブンゴウメール】人間椅子 (30/31)

(586字。目安の読了時間:2分) 手紙の後の方は、いっそ読まないで、破り棄てて了おうかと思ったけれど、どうやら気懸りなままに、居間の小机の上で、兎も角も、読みつづけた。 彼女の予感はやっぱり当っていた。 これはまあ、何という恐ろしい事実であろう…

【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (30/31)

(653字。目安の読了時間:2分) 二人は本当の新婚者の様に、恥かし相に顔を赤らめながら、お互の肌と肌とを触れ合って、さもむつまじく、尽きぬ睦言を語り合ったものでございますよ。 その後、父は東京の商売をたたみ、富山近くの故郷へ引込みましたので、…

【ブンゴウメール】人間椅子 (29/31)

(575字。目安の読了時間:2分) 私は決してそれ以上を望むものではありません。 そんなことを望むには、余りに醜く、汚れ果てた私でございます。 どうぞどうぞ、世にも不幸な男の、切なる願いを御聞き届け下さいませ。 私は昨夜、この手紙を書く為に、お邸…

【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (29/31)

(703字。目安の読了時間:2分) 私はその絵をどんなに高くてもよいから、必ず私に譲ってくれと、覗き屋に固い約束をして、(妙なことに、小姓の吉三の代りに洋服姿の兄が坐っているのを、覗き屋は少しも気がつかない様子でした)家へ飛んで帰って、一伍一什…

【ブンゴウメール】人間椅子 (28/31)

(543字。目安の読了時間:2分) 彼女は、丁度嬰児が母親の懐に抱かれる時の様な、又は、処女が恋人の抱擁に応じる時の様な、甘い優しさを以て私の椅子に身を沈めます。 そして、私の膝の上で、身体を動かす様子までが、さも懐しげに見えるのでございます。 …

【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (28/31)

(680字。目安の読了時間:2分) なんと、あなた、こうして私の兄は、それっきり、この世から姿を消してしまったのでございますよ……それ以来というもの、私は一層遠眼鏡という魔性の器械を恐れる様になりました。殊にも、このどこの国の船長とも分らぬ、異人…

【ブンゴウメール】人間椅子 (27/31)

(616字。目安の読了時間:2分) 若し、そこに人間が隠れているということを、あからさまに知らせたなら、彼女はきっと、驚きの余り、主人や召使達に、その事を告げるに相違ありません。 それでは凡てが駄目になって了うばかりか、私は、恐ろしい罪名を着て…

【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (27/31)

(679字。目安の読了時間:2分) で、兄の秘蔵の遠眼鏡も、余り覗いたことがなく、覗いたことが少い丈けに、余計それが魔性の器械に思われたものです。 しかも、日が暮て人顔もさだかに見えぬ、うすら淋しい観音堂の裏で、遠眼鏡をさかさにして、兄を覗くな…

【ブンゴウメール】人間椅子 (26/31)

(564字。目安の読了時間:2分) それ以来、約一ヶ月の間、私は絶えず、夫人と共に居りました。 夫人の食事と、就寝の時間を除いては、夫人のしなやかな身体は、いつも私の上に在りました。 それというのが、夫人は、その間、書斎につめきって、ある著作に没…