ブンゴウメール公式ブログ

青空文庫の作品を1ヶ月で読めるように毎日小分けでメール配信してくれるサービス「ブンゴウメール」のブログです

【ブンゴウメール】河童 (21/31)

(1423字。目安の読了時間:3分) 「わたしはこの間もある社会主義者に『貴様は盗人だ』と言われた ために心臓痲痺を[#「痲痺を」は底本では「痳痺を」] 起こしかかったものです。」 「それは案外多いようですね。わたしの知っていたある弁護士など はや…

【ブンゴウメール】河童 (20/31)

(1384字。目安の読了時間:3分) 「しかし僕の万年筆を盗んだのは……」 「子どもの玩具にするためだったのでしょう。けれどもその子ども は死んでいるのです。もし何か御不審だったら、 刑法千二百八十五条をお調べなさい。」 巡査はこう言いすてたなり、さ…

【ブンゴウメール】河童 (19/31)

(1405字。目安の読了時間:3分) × 成すことは成し得ることであり、成し得ることは成すことである。畢竟(ひっきょう)我々の生活はこういう循環論法を脱することは できない。――すなわち不合理に終始している。 × ボオドレエルは白痴になった後、彼の人生…

【ブンゴウメール】河童 (18/31)

(1364字。目安の読了時間:3分) のみならず何か疑わしそうに僕らの顔を見比べながら、こんなこと さえ言い出すのです。 「僕は決して無政府主義者ではないよ。それだけはきっと忘れずに いてくれたまえ。――ではさようなら。チャックなどはまっぴらご めん…

【ブンゴウメール】河童 (17/31)

(1372字。目安の読了時間:3分) 「では何を恐れているのだ?」 「何か正体の知れないものを、――言わばロックを支配している星 を。」 「どうも僕には腑(ふ)に落ちないがね。」 「ではこう言えばわかるだろう。ロックは僕の影響を受けない。が 、僕はいつ…

【ブンゴウメール】河童 (16/31)

(1363字。目安の読了時間:3分) 僕の同情したのはもちろんです。同時にまた家族制度に対する詩人のトックの軽蔑を思い出したのも もちろんです。僕はラップの肩をたたき、一生懸命に慰めました。 「そんなことはどこでもありがちだよ。まあ勇気を出したま…

【ブンゴウメール】河童 (15/31)

(1354字。目安の読了時間:3分) 悪はおのずから消滅すべし。』……しかもわたしは利益のほかにも 愛国心に燃え立っていたのですからね。」 ちょうどそこへはいってきたのはこの倶楽部(クラブ)の給仕です 。給仕はゲエルにお時宜をした後、朗読でもするよう…

【ブンゴウメール】河童 (14/31)

(1359字。目安の読了時間:3分) ゲエルはおお声に笑いました。 「それはむしろしあわせでしょう。」 「とにかくわたしは満足しています。しかしこれもあなたの前だけ に、――河童でないあなたの前だけに手放しで吹聴できるのです。 」 「するとつまりクオラ…

【ブンゴウメール】河童 (13/31)

(1361字。目安の読了時間:3分) のみならずまたゲエルの話は哲学者のマッグの話のように深みを持 っていなかったにせよ、僕には全然新しい世界を、――広い世界を のぞかせました。ゲエルは、いつも純金の匙(さじ)に珈琲(カッフェ)の茶碗をか きまわしな…

【ブンゴウメール】河童 (12/31)

(1418字。目安の読了時間:3分) 時価は一噸二三銭ですがね。」 もちろんこういう工業上の奇蹟は書籍製造会社にばかり起こってい るわけではありません。絵画製造会社にも、音楽製造会社にも、同じように起こっているの です。実際またゲエルの話によれば、…

【ブンゴウメール】河童 (11/31)

(1360字。目安の読了時間:3分) なにしろ音楽というものだけはどんなに風俗を壊乱する曲でも、耳 のない河童にはわかりませんからね。」 「しかしあの巡査は耳があるのですか?」 「さあ、それは疑問ですね。たぶん今の旋律を聞いているうちに細 君といっ…

【ブンゴウメール】河童 (10/31)

(1407字。目安の読了時間:3分) するとセロの独奏が終わった後、妙に目の細い河童が一匹、無造作 に譜本を抱えたまま、壇の上へ上がってきました。この河童はプログラムの教えるとおり、名高いクラバックという作 曲家です。プログラムの教えるとおり、――…

【ブンゴウメール】河童 (9/31)

(1419字。目安の読了時間:3分) が、やっと起き上がったのを見ると、失望というか、後悔というか 、とにかくなんとも形容できない、気の毒な顔をしていました。しかしそれはまだいいのです。これも僕の見かけた中に小さい雄の河童が一匹、雌の河童を追いか…

【ブンゴウメール】河童 (8/31)

(1385字。目安の読了時間:3分) もっともこれは六十本目にテエブルの下へ転げ落ちるが早いか、た ちまち往生してしまいましたが。 僕はある月のいい晩、詩人のトックと肘を組んだまま、超人倶楽部 から帰ってきました。トックはいつになく沈みこんでひとこ…

【ブンゴウメール】河童 (7/31)

(1371字。目安の読了時間:3分) 詩人が髪を長くしていることは我々人間と変わりません。僕は時々トックの家へ退屈しのぎに遊びにゆきました。トックはいつも狭い部屋に高山植物の鉢植えを並べ、詩を書いたり 煙草をのんだり、いかにも気楽そうに暮らしてい…

【ブンゴウメール】河童 (6/31)

(1366字。目安の読了時間:3分) が、そこにい合わせた産婆はたちまち細君の生殖器へ太い硝子(ガ ラス)の管を突きこみ、何か液体を注射しました。すると細君はほっとしたように太い息をもらしました。同時にまた今まで大きかった腹は水素瓦斯(すいそガス…

【ブンゴウメール】河童 (5/31)

(1415字。目安の読了時間:3分) のみならずバッグを追いかける時、突然どこへ行ったのか、見えな くなったことを思い出しました。しかも河童は皮膚の下によほど厚い脂肪を持っているとみえ、この 地下の国の温度は比較的低いのにもかかわらず、(平均華氏…

【ブンゴウメール】河童 (4/31)

(1393字。目安の読了時間:3分) 特別保護住民だった僕にだれも皆好奇心を持っていましたから、毎 日血圧を調べてもらいに、わざわざチャックを呼び寄せるゲエルと いう硝子(ガラス)会社の社長などもやはりこの部屋へ顔を出した ものです。しかし最初の半…

【ブンゴウメール】河童 (3/31)

(1449字。目安の読了時間:3分) 二 そのうちにやっと気がついてみると、僕は仰向けに倒れたまま、大 勢の河童にとり囲まれていました。のみならず太い嘴(くちばし)の上に鼻目金をかけた河童が一匹、 僕のそばへひざまずきながら、僕の胸へ聴診器を当てて…

【ブンゴウメール】河童 (2/31)

(1363字。目安の読了時間:3分) コオンド・ビイフの罐(かん)を切ったり、枯れ枝を集めて火をつ けたり、――そんなことをしているうちにかれこれ十分はたったで しょう。その間にどこまでも意地の悪い霧はいつかほのぼのと晴れかかりま した。僕はパンをか…

【ブンゴウメール】河童 (1/31)

(1403字。目安の読了時間:3分) 序 これはある精神病院の患者、――第二十三号がだれにでもしゃべる 話である。彼はもう三十を越しているであろう。が、一見したところはいかにも若々しい狂人である。彼の半生の経験は、――いや、そんなことはどうでもよい。…

【ブンゴウメール】夢十夜 (29/29)

(631字。目安の読了時間:2分) 庄太郎はやむをえずまた洋杖を振り上げた。豚はぐうと鳴いてまた真逆様に穴の底へ転げ込んだ。するとまた一匹あらわれた。この時庄太郎はふと気がついて、向うを見ると、遥(はるか)の青 草原の尽きる辺から幾万匹か数え切…

【ブンゴウメール】夢十夜 (28/29)

(678字。目安の読了時間:2分) 庄太郎は元来閑人の上に、すこぶる気作な男だから、ではお宅まで 持って参りましょうと云って、女といっしょに水菓子屋を出た。それぎり帰って来なかった。 いかな庄太郎でも、あんまり呑気過ぎる。只事じゃ無かろうと云って…

【ブンゴウメール】夢十夜 (27/29)

第十夜 庄太郎が女に攫(さら)われてから七日目の晩にふらりと帰って来 て、急に熱が出てどっと、床に就いていると云って健さんが知らせ に来た。 庄太郎は町内一の好男子で、至極善良な正直者である。ただ一つの道楽がある。パナマの帽子を被って、夕方に…

【ブンゴウメール】夢十夜 (26/29)

(697字。目安の読了時間:2分) 子供はよくこの鈴の音で眼を覚まして、四辺を見ると真暗だものだ から、急に背中で泣き出す事がある。その時母は口の内で何か祈りながら、背を振ってあやそうとする。すると旨く泣きやむ事もある。またますます烈しく泣き立…

【ブンゴウメール】夢十夜 (25/29)

(731字。目安の読了時間:2分) 夜になって、四隣が静まると、母は帯を締め直して、鮫鞘(さめざ や)の短刀を帯の間へ差して、子供を細帯で背中へ背負って、 そっと潜りから出て行く。母はいつでも草履を穿いていた。子供はこの草履の音を聞きながら母の背…

【ブンゴウメール】夢十夜 (24/29)

(652字。目安の読了時間:2分) 自分はしばらく立ってこの金魚売を眺めていた。けれども自分が眺めている間、金魚売はちっとも動かなかった。 第九夜 世の中が何となくざわつき始めた。今にも戦争が起りそうに見える。焼け出された裸馬が、夜昼となく、屋敷…

【ブンゴウメール】夢十夜 (23/29)

(666字。目安の読了時間:2分) 粟餅屋は子供の時に見たばかりだから、ちょっと様子が見たい。けれども粟餅屋はけっして鏡の中に出て来ない。ただ餅を搗く音だけする。 自分はあるたけの視力で鏡の角を覗(のぞ)き込むようにして見た 。すると帳場格子のう…

【ブンゴウメール】夢十夜 (22/29)

(703字。目安の読了時間:2分) それで御辞儀をして、どうも何とかですと云ったが、相手はどうし ても鏡の中へ出て来ない。 すると白い着物を着た大きな男が、自分の後ろへ来て、鋏(はさみ )と櫛(くし)を持って自分の頭を眺め出した。自分は薄い髭(ひ…

【ブンゴウメール】夢十夜 (21/29)

(643字。目安の読了時間:2分) 第八夜 床屋の敷居を跨(また)いだら、白い着物を着てかたまっていた三 四人が、一度にいらっしゃいと云った。 真中に立って見廻すと、四角な部屋である。窓が二方に開いて、残る二方に鏡が懸っている。鏡の数を勘定したら…