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二銭銅貨(28/30)

(618字。目安の読了時間:2分)

誰かの悪戯だという意味ではないだろうか」
 松村は物をも云わずに立上った。
そして、五万円の札束だと信じ切っている所の、かの風呂敷包を私の前へ持って来た。
「だが、この大事実をどうする。五万円という金は、小説の中からは生れないぞ」
 彼の声には、果し合をする時の様な真剣さが籠っていた。
私は恐ろしくなった。
そして、私の一寸したいたずらの、予想外に大きな効果を、後悔しないではいられなかった。
「俺は、君に対して実に済まぬことをした。どうか許して呉れ。君がそんなに大切にして持って来たのは、矢張り玩具の札なんだ。マア、それを開いてよく調べて見給え」
 松村は、丁度暗の中で物を探る様な、一種異様の手附で――それを見て、私は益々気の毒になった――長い間かかって風呂敷包を解いた。
そこには、新聞紙で丁寧に包んだ、二つの四角な包みがあった。
その内の一つは新聞が破れて中味が現れていた。
「俺は途中でこれを開いて、この眼で見たんだ」
 松村は喉に閊(つか)えた様な声で云って、尚おも新聞紙をすっかり取り去った。
 それは、如何にも真にせまった贋物であった。
一寸見たのでは、凡ての点が本物であった。
けれども、よく見ると、それらの札の表面には、圓という字の代りに團という字が、大きく印刷されてあった。
二十圓、十圓ではなくて、二十團、十團であった。
 松村はそれを信ぜぬように、幾度も幾度も見直していた。

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