ブンゴウメール公式ブログ

青空文庫の作品を1ヶ月で読めるように毎日小分けでメール配信してくれるサービス「ブンゴウメール」のブログです

2019-12-01から1ヶ月間の記事一覧

黒猫(30/30)

(330字。目安の読了時間:1分) 次の瞬間には、幾本かの逞しい腕が壁をせっせとくずしていた。壁はそっくり落ちた。もうひどく腐爛して血魂が固まりついている死骸が、そこにいた人々の眼前にすっくと立った。その頭の上に、赤い口を大きくあけ、爛々たる片…

黒猫(29/30)

(379字。目安の読了時間:1分) だが、神よ、魔王の牙より私を護りまた救いたまえ! 私の打った音の反響が鎮まるか鎮まらぬかに、その墓のなかから一つの声が私に答えたのであった! ――初めは、子供の啜り泣きのように、なにかで包まれたような、きれぎれな…

黒猫(28/30)

(394字。目安の読了時間:1分) 私は、凱歌のつもりでたった一言でも言ってやり、また自分の潔白を彼らに確かな上にも確かにしてやりたくてたまらなかった。「皆さん」と、とうとう私は、一行が階投をのぼりかけたときに、言った。「お疑いが晴れたことをわ…

黒猫(27/30)

(373字。目安の読了時間:1分) 殺人をしてから四日目に、まったく思いがけなく、一隊の警官が家へやって来て、ふたたび屋内を厳重に調べにかかった。けれども、自分の隠匿の場所はわかるはずがないと思って、私はちっともどぎまぎしなかった。警官は私に彼…

黒猫(26/30)

(465字。目安の読了時間:1分) その厭でたまらない生きものがいなくなったために私の胸に生じた、深い、この上なく幸福な、安堵の感じは、記述することも、想像することもできないくらいである。猫はその夜じゅう姿をあらわさなかった。――で、そのために、…

黒猫(25/30)

(367字。目安の読了時間:1分) 壁には手を加えたような様子が少しも見えなかった。床の上の屑はごく注意して拾い上げた。私は得意になってあたりを見まわして、こう独言を言った。――「さあ、これで少なくとも今度だけは己の骨折りも無駄じゃなかったぞ」 …

黒猫(24/30)

(376字。目安の読了時間:1分) その上に、一方の壁には、穴蔵の他のところと同じようにしてある、見せかけだけの煙突か暖炉のためにできた、突き出た一カ所があった。ここの煉瓦を取りのけて、死骸を押しこみ、誰の目にもなに一つ怪しいことの見つからない…

黒猫(24/30)

(376字。目安の読了時間:1分) その上に、一方の壁には、穴蔵の他のところと同じようにしてある、見せかけだけの煙突か暖炉のためにできた、突き出た一カ所があった。ここの煉瓦を取りのけて、死骸を押しこみ、誰の目にもなに一つ怪しいことの見つからない…

黒猫(23/30)

(405字。目安の読了時間:1分) いろいろの計画が心に浮んだ。あるときは死骸を細かく切って火で焼いてしまおうと考えた。またあるときには穴蔵の床にそれを埋める穴を掘ろうと決心した。さらにまた、庭の井戸のなかへ投げこもうかとも――商品のように箱のな…

黒猫(23/30)

(405字。目安の読了時間:1分) いろいろの計画が心に浮んだ。あるときは死骸を細かく切って火で焼いてしまおうと考えた。またあるときには穴蔵の床にそれを埋める穴を掘ろうと決心した。さらにまた、庭の井戸のなかへ投げこもうかとも――商品のように箱のな…

黒猫(22/30)

(400字。目安の読了時間:1分) 猫もその急な階段を私のあとへついて降りてきたが、もう少しのことで私を真っ逆さまに突き落そうとしたので、私はかっと激怒した。怒りのあまり、これまで自分の手を止めていたあの子供らしい怖さも忘れて、斧を振り上げ、そ…

黒猫(21/30)

(461字。目安の読了時間:1分) 夜には、私は言いようもなく恐ろしい夢から毎時間ぎょっとして目覚めると、そいつの熱い息が自分の顔にかかり、そのどっしりした重さが――私には払い落す力のない悪魔の化身が――いつもいつも私の心臓の上に圧しかかっているの…

黒猫(20/30)

(430字。目安の読了時間:1分) ――そして、とりわけこのために、私はその怪物を嫌い、恐れ、できるなら思いきってやっつけてしまいたいと思ったのであるが、――それはいまや、恐ろしい――もの凄い物の――絞首台の――形になったのだ! ――おお、恐怖と罪悪との――…

黒猫(19/30)

(467字。目安の読了時間:1分) 私は告白するのが恥ずかしいくらいだが――そうだ、この重罪人の監房のなかにあってさえも、告白するのが恥ずかしいくらいだが――その動物が私の心に起させた恐怖の念は、実にくだらない一つの妄想のために強められていたのであ…

黒猫(18/30)

(426字。目安の読了時間:1分) 私が腰かけているときにはいつでも、椅子の下にうずくまったり、あるいは膝の上へ上がって、しきりにどこへでもいまいましくじゃれついたりした。立ち上がって歩こうとすると、両足のあいだへ入って、私を倒しそうにしたり、…

黒猫(17/30)

(355字。目安の読了時間:1分) 疑いもなく、その動物に対する私の憎しみを増したのは、それを家へ連れてきた翌朝、それにもプルートォのように片眼がないということを発見したことであった。けれども、この事がらのためにそれはますます妻にかわいがられる…

黒猫(16/30)

(428字。目安の読了時間:1分) 私はというと、間もなくその猫に対する嫌悪の情が心のなかに湧き起るのに気がついた。これは自分の予想していたこととは正反対であった。しかし――どうしてだか、またなぜだかは知らないが――猫がはっきり私を好いていることが…

黒猫(15/30)

(418字。目安の読了時間:1分) プルートォは体のどこにも白い毛が一本もなかったが、この猫は、胸のところがほとんど一面に、ぼんやりした形ではあるが、大きな、白い斑点で蔽われているのだ。 私がさわると、その猫はすぐに立ち上がり、さかんにごろごろ…

黒猫(14/30)

(430字。目安の読了時間:1分) 私は猫のいなくなったことを悔むようにさえなり、そのころ行きつけの悪所でそれの代りになる同じ種類の、またいくらか似たような毛並のものがいないかと自分のまわりを捜すようにもなった。 ある夜、ごくたちの悪い酒場に、…

黒猫(13/30)

(397字。目安の読了時間:1分) これはきっと私の寝ているのを起すためにやったものだろう。そこへ他の壁が落ちかかって、私の残虐の犠牲者を、その塗りたての漆喰の壁のなかへ押しつけ、そうして、その漆喰の石灰と、火炎と、死骸から出たアンモニアとで、…

黒猫(12/30)

(370字。目安の読了時間:1分) 「妙だな!」「不思議だね?」という言葉や、その他それに似たような文句が、私の好奇心をそそった。近づいてみると、その白い表面に薄肉彫りに彫ったかのように、巨大な猫の姿が見えた。その痕はまったく驚くほど正確にあら…

黒猫(11/30)

(356字。目安の読了時間:1分) 私の全財産はなくなり、それ以来私は絶望に身をまかせてしまった。 この災難とあの凶行とのあいだに因果関係をつけようとするほど、私は心の弱い者ではない。しかし私は事実のつながりを詳しく述べているのであって、――一つ…

黒猫(10/30)

(389字。目安の読了時間:1分) ――眼から涙を流しながら、心に痛切な悔恨を感じながら、つるした。――その猫が私を慕っていたということを知っていればこそ、猫が私を怒らせるようなことはなに一つしなかったということを感じていればこそ、つるしたのだ。――…

黒猫(9/30)

(374字。目安の読了時間:1分) してはいけないという、ただそれだけの理由で、自分が邪悪な、あるいは愚かな行為をしていることに、人はどんなにかしばしば気づいたことであろう。人は、掟を、単にそれが掟であると知っているだけのために、その最善の判断…

黒猫(8/30)

(449字。目安の読了時間:1分) 眼のなくなった眼窩はいかにも恐ろしい様子をしてはいたが、もう痛みは少しもないようだった。彼はもとどおりに家のなかを歩きまわっていたけれども、当りまえのことであろうが私が近づくとひどく恐ろしがって逃げて行くのだ…

黒猫(7/30)

(372字。目安の読了時間:1分) そしてジン酒におだてられた悪鬼以上の憎悪が体のあらゆる筋肉をぶるぶる震わせた。私はチョッキのポケットからペンナイフを取り出し、それを開き、そのかわいそうな動物の咽喉をつかむと、悠々とその眼窩から片眼をえぐり取…

黒猫(6/30)

(450字。目安の読了時間:1分) けれども、兎や、猿や、あるいは犬でさえも、なにげなく、または私を慕って、そばへやって来ると、遠慮なしにいじめてやったものだったのだが、プルートォをいじめないでおくだけの心づかいはまだあった。しかし私の病気はつ…

黒猫(5/30)

(387字。目安の読了時間:1分) 往来へまでついて来ないようにするのには、かなり骨が折れるくらいであった。 私と猫との親しみはこんなぐあいにして数年間つづいたが、そのあいだに私の気質や性格は一般に――酒癖という悪鬼のために――急激に悪いほうへ(白…

黒猫(4/30)

(387字。目安の読了時間:1分) 私たちは鳥類や、金魚や、一匹の立派な犬や、兎や、一匹の小猿や、一匹の猫などを飼った。 この最後のものは非常に大きな美しい動物で、体じゅう黒く、驚くほどに利口だった。この猫の知恵のあることを話すときには、心では…

黒猫(3/30)

(387字。目安の読了時間:1分) 私はたいていそれらの生きものを相手にして時を過し、それらに食物をやったり、それらを愛撫したりするときほど楽しいことはなかった。この特質は成長するとともにだんだん強くなり、大人になってからは自分の主な楽しみの源…