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黒猫(13/30)

(397字。目安の読了時間:1分)

これはきっと私の寝ているのを起すためにやったものだろう。
そこへ他の壁が落ちかかって、私の残虐の犠牲者を、その塗りたての漆喰の壁のなかへ押しつけ、そうして、その漆喰の石灰と、火炎と、死骸から出たアンモニアとで、自分の見たような像ができあがったのだ。
 いま述べた驚くべき事実を、自分の良心にたいしてはぜんぜんできなかったとしても、理性にたいしてはこんなにたやすく説明したのであるが、それでも、それが私の想像に深い印象を与えたことに変りはなかった。
幾月ものあいだ私はその猫の幻像を払いのけることができなかった。
そしてそのあいだ、悔恨に似ているがそうではないある漠然とした感情が、私の心のなかへ戻ってきた。
私は猫のいなくなったことを悔むようにさえなり、そのころ行きつけの悪所でそれの代りになる同じ種類の、またいくらか似たような毛並のものがいないかと自分のまわりを捜すようにもなった。

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