2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧
(540字。目安の読了時間:2分)…… そういう父の悲しい物語を聞いているうち、私は漸くはっきり目をさましながら、いつのまにか、こっそり涙を流している自分に気がついた。しかしそれは私の母の死を悲しんでいるのではなかった。その悲しみだったなら、それ…
(656字。目安の読了時間:2分)しかし私は、そんな周囲の生き生きとした光景のおかげで、まるでお前たちとキャンプ生活でもしているかのように、ひとりでに心が浮き立った。 私はお前たちと、その天幕の片隅に、一塊りに重なり合いながら、横になった。寝返…
(552字。目安の読了時間:2分)そしてその流し場に、一塊りの血を吐いていた…… その日の午後、誰にもそのことを知らせずに、私は突然T村を立ち去った。 エピロオグ 地震! それは愛の秩序まで引っくり返すものと見える。 私は寄宿舎から、帽子もかぶらずに…
(601字。目安の読了時間:2分)そうして私はますます彼を避けるようにした。彼は時々悲しげな目つきで私の方を見つめた。……私はそのもの云いたげな、しかし去年とはまるっきり異った眼ざしの中に、彼の苦痛を見抜いたように思った。しかし私自身はと云えば…
(549字。目安の読了時間:2分)母はそんな私の野心なんかに気づかずに、ただ私の中に蘇(よみがえ)った子供らしさの故に、夢中になって私を愛した。 その高原から帰ると間もなく、私はT村からお前の兄たちの打った一通の電報を受取った。それは一種の暗号…
(621字。目安の読了時間:2分)…まったまま、今にもその詩人が私の名を呼んで、その少女たちに紹介してくれやしないかという期待に胸をはずませながら、しかし何食わぬ顔をして、鶏肉屋の店先きに飼われている七面鳥を見つめていた…… しかし少女たちは私の…
(682字。目安の読了時間:2分)落葉松の林の中を歩いていると、突然背後から馬の足音がしたりした。テニスコオトの附近は、毎日賑(にぎ)やかで、まるで戸外舞踏会が催されているようだった。そのすぐ裏の教会からはピアノの音が絶えず聞えて…… 毎年の夏を…
(553字。目安の読了時間:2分) 私は或る日、突然、私のはいることになっている医科を止めて、文科にはいりたいことを母に訴えた。母はそれを聞きながら、ただ、呆気にとられていた。 それがその秋の最後の日かと思われるような、或る日のことだった。私は…
(595字。目安の読了時間:2分)……そうしてそのために私はへとへとに疲れて、こっそりと泣きながら、出発した。 秋になってから、その青年が突然、私に長い手紙をよこした。私はその手紙を読みながら、膨れっ面をした。その手紙の終りの方には、お前が出発す…
(609字。目安の読了時間:2分) その青年がお前の兄たちよりも私に好意を寄せているらしいことは、私はすぐ見てとったが、私の方では、どうも彼があんまり好きになれなかった。もし彼が私の競争者として現われたのでなかったならば、私は彼には見向きもしな…
(607字。目安の読了時間:2分) 或る日曜日、お前たちが讃美歌の練習をしている間、私はお前の兄たちと、その教会の隅っこに隠れながら、バットをめいめい手にして、その村の悪者どもを待伏せていた。彼等は何も知らずに、何時ものように、白い歯をむき出し…
(578字。目安の読了時間:2分)私はなんだかお前に裏切られたような気がしてならなかった。 日曜日ごとに、お前はお前の姉と連れ立って、村の小さな教会へ行くようになった。そう云えば、お前はどうもお前の姉に急に似て来だしたように見える。お前の姉は私…
(567字。目安の読了時間:2分)ああ、その手紙に几帳面な署名がなかったら、どんなによかったろうに!…… 匿名の手紙は、いつまでたっても、私のところへは来なかった。 そのうちに、夏が一周りしてやってきた。 私はお前たちに招待されたので、再びT村を訪…
(558字。目安の読了時間:2分)私の同室者たちのところへは、ときおり女文字の匿名の手紙が届いた。皆が彼等のまわりへ環になった。彼等は代る代るに、顔を赧(あか)らめて、嘘(うそ)を半分まぜながら、その匿名の少女のことを話した。私も彼等の仲間入…
(561字。目安の読了時間:2分)しかし、その間、母の方では、私のことで始終不安になっていた。その一週間のうちに、急に私が成長して、全く彼女の見知らない青年になってしまいはせぬかと気づかって。で、私が寄宿舎から帰って行くと、彼女は私の中に、昔…
(577字。目安の読了時間:2分)だから、私はそのことをそんなに悲しみはしなかった。もしも汽車の中の私がいかにも悲しそうな様子に見えたと云うなら、それは私が自分の宿題の最後の方がすこし不出来なことを考えているせいだったのだ。私はふと、この次ぎ…
(552字。目安の読了時間:2分)気の小さな私はすっかりしょげて、其処から引き返した。――私はあとでもって、一人でこっそりと、その井戸端に行ってみた。そしてそこの隅っこに、私の海水着が丸められたまま、打棄てられてあるのを見た。私ははっと思った。…
(574字。目安の読了時間:2分)「こいつを一服したら……」「まあ!」お前は私と目と目を合わせて、ちらりと笑った。その瞬間、私たちにはなんだか離れの方が急にひっそりしたような気がした。 せっかくボンボンやら何やらを持って来てやったのに、自分にはろ…
(566字。目安の読了時間:2分)……「どうして僕のお母さんを知っていたの?」「だってあなたのお母様は運動会のとき何時もいらっしってたじゃないの? そうして私のお母様といつも並んで見ていらしったわ」私はそんなことはまるっきり知らなかった。何故なら…
(577字。目安の読了時間:2分)そうしてそれが、砂の中から浮んでいる私の顔を、とても変梃にさせていそうだった。私はいっそのこと、そんな顔も砂の中に埋めてしまいたかった! 何故なら、私は田舎から、私の母へ宛てて、わざと悲しそうな手紙ばかり送って…
(563字。目安の読了時間:2分)それから私は郵便局で、私の母へ宛てて電報を打った。「ボンボンオクレ」 そうして私は汗だくになって、決勝点に近づくときの選手の真似をして、死にものぐるいの恰好で、ペダルを踏みながら、村に帰ってきた。 それから二三…
(569字。目安の読了時間:2分)むしろ、そんな薄情な奴になるより、嘘つきになった方がましだ。 私は頬をふくらませて、何も云わずに、汗を拭いていた。どうも、さっきから、あの夾竹桃の薄紅い花が目ざわりでいけない。 この二三日、お前は、鼠色の、だぶ…
(633字。目安の読了時間:2分)……ちょっと、やってみない」「だってラケットはなし、一体何処でするのさ」「小学校へ行けば、みんな貸してくれるわ」 それがお前と二人きりで遊ぶには、もってこいの機会に見えたので、私はそれを逃がすまいとして、すぐ分る…
(580字。目安の読了時間:2分) まだあんまり開けていない、そのT村には、避暑客らしいものは、私たちの他には、一組もない位だった。私たちはその小さな村の人気者だった。海岸などにいると、いつも私たちの周りには人だかりがした程に。そうして村の善良…
(602字。目安の読了時間:2分)「今日はまだ一ぺんもしてあげなかったのね……」そう云って、お前はその小さな弟を引きよせて、私たちのいる前で、平気で彼と接吻をする。 私はいつまでも投球のモオションを続けながら、それを横目で見ている。 その牧場のむ…
(593字。目安の読了時間:2分) 沖の方で泳いでいると、水があんまり綺麗なので、私たちの泳いでいる影が、魚のかげと一しょに、水底に映った。そのおかげで、空にそれとよく似た雲がうかんでいる時は、それもまた、私たちの空にうつる影ではないかとさえ思…
(573字。目安の読了時間:2分)……」――私は振りむく。さっきの少女が、砂の中から半身を出してにっこりと笑っているのが、今度は、私にもよく見える。「なあんだ、君だったの?」「おわかりになりませんでしたこと?」 海水着がどうも怪しい。私がそれ一枚き…
(552字。目安の読了時間:2分) 私は海岸へ行く道順を教わると、すぐ裸足になって、松林の中の、その小径を飛んで行った。焼けた砂が、まるでパンの焦げるような好い匂いがした。 海岸には、光線がぎっしりと充填って、まぶしくって、何にも見えない位だっ…
(591字。目安の読了時間:2分)真っ白な運動服を着た、二人とも私よりすこし年上の、お前の兄たちの姿が、先ず浮ぶ。毎日のように、私は彼等とベエスボオルの練習をした。或る日、私は田圃に落ちた。花環を手にしていたお前の傍で、私は裸かにさせられた。…
(622字。目安の読了時間:2分)そして、私のためにお前が泥だらけになったズボンを洗濯してくれている間、私はてれかくしに、わざと道化けて、お前のために持ってやっている花環を、私の帽子の代りに、かぶって見せたりする。そして、まるで古代の彫刻のよ…