ブンゴウメール公式ブログ

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2018-10-01から1ヶ月間の記事一覧

【ブンゴウメール】断食芸人 (31/31)

(389字。目安の読了時間:1分) あんなに長いこと荒れ果てていた檻のなかにこの野獣が跳び廻っているのをながめることは、どんなに鈍感な人間にとってもはっきり感じられる気ばらしであった。 豹には何一つ不自由なものはなかった。 豹がうまいと思う食べも…

【ブンゴウメール】断食芸人 (29/31)

(472字。目安の読了時間:1分) 耳を格子にあてていた監督だけが、芸人のいうことがわかった。 「いいとも」と、監督はいって、指を額に当て、それによって断食芸人の状態を係員たちにほのめかした。 少し頭にきている、というしぐさだ。 「許してやるとも…

【ブンゴウメール】断食芸人 (30/31)

(414字。目安の読了時間:1分) 「それはな、おれが」と、断食芸人はいって、小さな頭を少しばかりもたげ、まるで接吻するように唇をとがらして、ひとことでももれてしまわないように監督のすぐ耳もとでささやいた。 「うまいと思う食べものを見つけること…

【ブンゴウメール】断食芸人 (28/31)

(412字。目安の読了時間:1分) というのは、断食芸人はあざむいたりせず、正直に働いていたのだが、世間のほうが彼をあざむいて彼の当然もらうべき報酬を奪ってしまったのだった。 だが、それからふたたび多くの日々が流れ過ぎて、それもついに終りになっ…

【ブンゴウメール】桜の森の満開の下

【1/30】(666字。目安の読了時間:2分) 桜の花が咲くと人々は酒をぶらさげたり団子をたべて花の下を歩いて絶景だの春ランマンだのと浮かれて陽気になりますが、これは嘘です。 なぜ嘘かと申しますと、桜の花の下へ人がより集って酔っ払ってゲロを吐いて喧…

【ブンゴウメール】断食芸人 (27/31)

(445字。目安の読了時間:1分) やりとげた断食日数を示す数字を書いた小さな黒板は、最初のうちは念入りに毎日書きあらためられていたのだったが、もうずっと前からいつでも同じものになっていた。 というのは、最初の一週間が過ぎると係員自身がこのつま…

【ブンゴウメール】断食芸人 (26/31)

(426字。目安の読了時間:1分) とはいっても、小さな障害にすぎないのだ。 しかも、いよいよ小さくなっていく障害なのだ。 この今日において断食芸人に対する注目を集めようという風変りな趣向にも、人びとはもう慣れてしまい、この慣れによって芸人に関す…

【ブンゴウメール】断食芸人 (25/31)

(449字。目安の読了時間:1分) 動物小屋の臭気の発散、夜間における動物たちのざわめき、猛獣たちにやるため眼の前を運ばれていく生肉、餌をやるときのけものの叫び声、こうしたものが芸人をひどく傷つけ、たえず彼の心を押しつけるということは別としても…

【ブンゴウメール】断食芸人 (24/31)

(520字。目安の読了時間:2分) そして、それほどしょっちゅうあるわけではないが、運のいい場合には、父親が子供づれでやってきて、指で断食芸人をさし示し、これがどういうものなのかをくわしく説明し、昔のことを語り聞かせ、この断食芸人はこれと似ては…

【ブンゴウメール】断食芸人 (23/31)

(483字。目安の読了時間:1分) というのは、人びとが彼のところへやってくると、彼はたちまち、たえず変っていく二種類の人びとの叫び声やののしりの言葉のすさまじいさわぎに取り巻かれるのだった。 一方の人びとは――この連中のほうがやがて断食芸人には…

【ブンゴウメール】断食芸人 (22/31)

(523字。目安の読了時間:2分) 狭い通路にあとからあとからつめかける人びとが、いこうと思っている動物小屋への途中でなぜこうやって立ちどまるのかわからないまま、落ちついてもっと長くながめることを不可能にするのでなかったならば、おそらく人びとは…

【ブンゴウメール】断食芸人 (21/31)

(503字。目安の読了時間:2分) とはいえ、この主張は、断食芸人が熱中のあまり容易に忘れてしまっていた時代の風潮というものを考えあわせてみるならば、サーカスの専門家たちのあいだではただ薄笑いを招くだけではあった。 だが、根本においては断食芸人…

【ブンゴウメール】断食芸人 (20/31)

(399字。目安の読了時間:1分) むろん、それ相応にひかえ目な注文しかつけはしない。 それに、この特殊な場合にあっては、雇われたのは断食芸人その人ばかりではなく、彼の古くからの有名な名前もそうなのであり、実際、年をとっていくのに衰えないこの芸…

【ブンゴウメール】断食芸人 (19/31)

(408字。目安の読了時間:1分) いつかは断食の全盛時代がふたたびくるだろう、ということは確実だったが、今生きている人びとにとってはそんなことはなんのなぐさめにもならなかった。 そこで、断食芸人は何をやったらいいのだろうか。 何千という観客の歓…

【ブンゴウメール】断食芸人 (18/31)

(420字。目安の読了時間:1分) いずれにしろ、ある日のこと、ちやほやされていた断食芸人は自分が楽しみを求める群集から見捨てられたのを知った。 群集は断食芸人よりもほかの見世物のほうへ流れていくのだった。 興行主はもう一度彼をつれてヨーロッパ半…

【ブンゴウメール】断食芸人 (17/31)

(481字。目安の読了時間:1分) 真実をこうしてねじまげる興行主のやりかたは、断食芸人がよく知っているものだったが、いつでもあらためて彼の元気をそぎ、あんまり度がすぎるものと思われた。 断食をあまりに早くうち切ることの結果なのが、今ここでは原…

【ブンゴウメール】断食芸人 (16/31)

(459字。目安の読了時間:1分) 彼は集った観客の前で断食芸人のこうしたふるまいのわびをいって、満腹している人びとにはすぐにはわからないが、ただ断食によって生じる怒りっぽさというものだけによって断食芸人のこんなふるまいが無理からぬものと思って…

【ブンゴウメール】断食芸人 (15/31)

(470字。目安の読了時間:1分) 外見上ははなばなしく、世間からもてはやされながら、そうやって生きてきた。 だが、それにもかかわらずたいていはうち沈んだ気分のうちにいた。 そうした気分は、だれ一人としてそれをまじめに受け取ることを知らないために…

【ブンゴウメール】断食芸人 (14/31)

(378字。目安の読了時間:1分) つぎが食事であった。 興行主は断食芸人が失心したようにうとうとしているあいだにその口に少しばかり流しこんだ。 断食芸人のこんな状態から人びとの注意をそらそうとして、陽気なおしゃべりをしながら、それをやるのだった…

【ブンゴウメール】断食芸人 (13/31)

(404字。目安の読了時間:1分) 両脚は自己保存の本能によって膝のところでぴったり合わさっていたが、地面をまるでほんとうの地面ではないというような様子でこするのだった。 ほんとうの地面を両脚はまず最初に探しているのだった。 そして、身体全体の重…

【ブンゴウメール】断食芸人 (12/31)

(433字。目安の読了時間:1分) まるで、天に向って、ここのわらの上にいる天の創造物、このあわれむべき殉難者をどうか見て下さい、とさそうかのようだ。 たしかに断食芸人は殉難者ではあったが、ただまったく別な意味でなのだ。 それから興行主は断食芸人…

【ブンゴウメール】断食芸人 (11/31)

(420字。目安の読了時間:1分) なぜ彼をこんなにも感嘆していると称するこの群集がこんなにわずかしか辛抱しないのか。 彼がこれ以上断食することに耐えるのなら、なぜ群集のほうでも耐えないのか。 彼は疲れてはいたが、わらのなかでちゃんと坐っていた。…

【ブンゴウメール】断食芸人 (10/31)

(411字。目安の読了時間:1分) そして、この瞬間、断食芸人はいつでもさからおうとするのだった。 なるほど彼は自分の骨の出た両腕を自分のほうへかがんだご婦人がたの助けてくれようとしてさし出された手に進んでのせはするのだが、立ち上がろうとはしな…

【ブンゴウメール】断食芸人 (9/31)

(420字。目安の読了時間:1分) およそ四十日ぐらいのあいだは、経験からいうとだんだんと高まっていく宣伝によって一つの町の関心をいよいよそそることができたが、それからは観衆も受けつけなくなり、客の数がぐんと減るということがはっきりみとめられる…

【ブンゴウメール】断食芸人 (8/31)

(507字。目安の読了時間:2分) 彼はそのことを秘密にしておいたわけではなかったが、人びとは彼のいうことを信じなかった。 よくいってせいぜい人は彼のことを謙遜だと考えるのだが、たいていは宣伝屋だとか、インチキ師だとか考えるのだった。 このインチ…

【ブンゴウメール】断食芸人 (7/31)

(412字。目安の読了時間:1分) したがって、だれも自分自身の眼でながめたことから、ほんとうに引きつづきまちがいなしに断食が実行されたかどうか、知ることはできなかった。 ただ断食芸人自身だけがそれを知ることができた。 だから彼だけが同時に、自分…

【ブンゴウメール】断食芸人 (6/31)

(431字。目安の読了時間:1分) しかし、彼がいちばん幸福なのは、やがて朝がきて、彼のほうの費用もちで見張り番たちにたっぷり朝食が運ばれ、骨の折れる徹夜のあとの健康な男たちらしい食欲で彼らがその朝食にかぶりつくときだった。 この朝食を出すこと…

【ブンゴウメール】断食芸人 (5/31)

(516字。目安の読了時間:2分) 芸人にとっては、格子のすぐ前に坐り、ホールのぼんやりした夜間照明では満足しないで、興行主が自由に使うようにと渡した懐中電燈で自分を照らすような見張りたちのほうがずっと好ましかった。 そのまばゆい光は彼にはまっ…

【ブンゴウメール】断食芸人 (4/31)

(404字。目安の読了時間:1分) それは、彼らの考えによれば断食芸人が何かひそかに同意してある品物から取り出すことができるはずのちょっとした飲食物をとるのを見逃がしてやっていい、というつもりらしかった。 こんな見張りたちほどに断食芸人に苦痛を…

【ブンゴウメール】断食芸人 (3/31)

(474字。目安の読了時間:1分) 入れ変わる見物人のほかに、観客たちに選ばれた常任の見張りがいて、これが奇妙にもたいていは肉屋で、いつでも三人が同時に見張る。 彼らの役目は、断食芸人が何か人に気づかれないようなやりかたで食べものをとるようなこ…