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科学の不思議(16/30)

(873字。目安の読了時間:2分)

木のやはらかい処や葉の裏には数へる事も出来ない位にびつしりくつつき合つて、真黒なびろうどのやうな虱(しらみ)がしつかりくつついてゐました。
その虱は、毛よりも細い吸盤を皮の中に突込んで、少しも其の位置を変へずに接骨木の樹汁で無事に腹を一杯にしてゐるのです。
其のお尻の先に小さくて穴のある二本の毛を持つてゐます。
その二つの管からは、よく気をつけて見ると砂糖水のやうな小さな滴りが時々漏れ出してゐるのが見えます。
此の黒い虱は木虱と云つて、これが蟻の牝牛なのです。
其の二つの管は牝牛の乳房で、その端から滴る液体が乳なのです。
牝牛が重なり合ふやうにくつついてゐるその真中やその上までも這ひまはつて飢ゑた蟻達は彼方此方の虱の間を行つたり来たりして、其のうまい滴りの出るのを見守つてゐます。
そして、それが見つかればすぐに走つて行てそれを飲んで楽しんでゐます。
そして小さい頭をあげておゝ何てうまいんだらう、おおこれは何んてうまいんだらう! と云つてゐるやうに見えます。
そして、又、他の一口のミルクをさがしに行くのです。
けれども、木虱は乳を吝(お)しみます。
何時もその管から流し出しはしないのです。
其の時には蟻は、乳搾りが其の牝牛の乳にするやうに、やさしく木虱の背中を幾度も撫でさすつてやります。
同時に触角といふ其の細いしなやかな小さな角でそつと胃を叩いたり、乳管を擦つたりします。
此の蟻の仕事は大抵うまくゆくのです。
此のおとなしいやり方で、どうして成就しない事がありませう! 木虱は負けてしまひます。
そして一とたらしの滴を見せます。
それはすぐに舐(な)めつくされて仕舞ふのです。
けれども、蟻はその小さな腹がまだ一杯にはならないと云ふやうに、他の木虱を撫でに行つてしまひます。
 ポオル叔父さんは枝を離しました。
枝は跳ね返つてもとの位置に返りました。
乳搾りも、牛も、牧場も忽ち接骨木の茂みの頂上に行つてしまひました。
『まあ、不思議ですのねえ、叔父さん。』とクレエルが叫びました。

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