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科学の不思議(25/30)

(839字。目安の読了時間:2分)


『僕、坊さんが其の金貨が千枚づつはいつた十の財布をことわつたと云ふのには一寸おどろきましたよ。
だけども坊さんはそれよりはもつといゝものを待つてゐたんですね。
十の財布はいつまでもそのまゝになつてはゐませんからね?』
『其の金貨一枚は十二フランの値うちがあるのだ。
だから王様が坊さんにやらうとして持ち出した総計は十二万フランと、其の外に小麦の袋だ。』
『そして坊さんは、小麦の粒を六十四度倍加したものを戴きたいと申し出たんですね。』
『その事にくらべれば、王様から坊さんに持ち出したものなんか、何んでもなかつたのだ。』
『が、叔父さん、木虱の話は?』とジユウルがたづねました。
『此の坊さんの話は、直ぐにその木虱の話と結びつく』と叔父さんはジユウルに云つてやりました。
七 無数の家族
『一匹の木虱について考へると、』ポオル叔父さんは続けました。
『薔薇の藪の柔かい嫩枝に木虱がついたばかりの時には、一匹づつはなれてゐる。
みんな一匹づつだ。
けれども暫くすると若い木虱がそのまはりをとりまいてゐる。
その若い奴はみんな子供なのだ。
その沢山な事といつたら! 十、二十、百たとへば十とする。
それで木虱はその種族を維持して行くのに十分だらうか? 尤(もっと)も、薔薇の藪から木虱がゐなくなつたところで、そんな事はどうでもいゝ事のやうだがね。』
『でも、蟻達が一等可哀想ですものね。』とエミルが云ひました。
『うん、それもある。
が、十匹の木虱で其の種族を十分に維持してゆけるかどうかといふ事は、学問の上から云つて決してつまらない質問ではないのだ。』
『一匹の木虱が十匹の木虱になるとする。
尤も、本当は、此の虫がいろんな事で殺されるのを勘定に入れると、それでは多すぎるのだがね。
一匹が一匹に代つて行けばいつまでたつても其の数はおんなじだ。
が、一匹が十匹になつて行けば、ほんの一寸の間で、其の数は勘定の出来ない位に殖える。

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