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絵のない絵本(38/59)

(762字。目安の読了時間:2分)

この人たちは、人の通ったことのない道でも敵の種族に出会いませんでした。嵐も起りませんでした。旅行く人々を死にたやす砂柱も、この隊商の上にはまき起りませんでした。家では、美しい妻が夫や父のために祈っていました。
『あの人たちは死んだのでしょうか?』と、わたしの金色の半月にむかって、美しい妻はたずねました。『あの人たちは死んだのでしょうか?』と、わたしのこうこうと輝く月の輪にむかってたずねました。
 いまはもう、砂漠は隊商の後になりました。今夜は高いシュロの木の下にすわっています。そこでは鶴が長い翼をひろげて飛びまわり、ペリカン鳥はミモザの枝から人々を見おろしています。生い茂った草藪が、象の重たい足に踏みつけられています。黒人の群れがずっと奥地にある市場から帰ってきます。黒い髪の毛のまわりに銅のボタンをつけて、あい色のスカートをはいた女たちが、重い荷をつんだ牡牛を追っています。その荷物の上には、裸の黒い子供が眠っています。ひとりの黒人は買ってきたライオンの子を綱で引いています。こうした人たちが隊商に近づいているのです。あの若い商人は身動き一つしないで、黙ってすわっています。心に思っているのは美しい妻のことです。この黒人の国にいながら、砂漠のかなたの匂い高い、まっ白な花のことを夢みているのです。商人は頭をあげます――!」そのとき、一つの雲が月をおおいました。
それから、また一つの雲がかかりました。
わたしはその晩はもう、それ以上何も聞きませんでした。
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第二十二夜
「わたしは小さい女の子が泣いているのを見ました」と、月が言いました。
「その子は世の中が意地悪いのを泣いていたのです。この女の子はとても美しいお人形をもらいました。それは、ほんとうにかわいい、きれいなお人形でした。

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