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絵のない絵本(51/59)

(756字。目安の読了時間:2分)

御者は道のりの半分以上もよく眠ってきたのに、――それはわたしがいちばんよく知っていますが――まだ手足をのばしていました。下男部屋への戸は開いていましたが、寝床はまるでひっくり返されたかと思われるようなありさまでした。ろうそくは床の上に置いてあって、燭台の中に深く燃え落ちていました。
 風が冷たく小屋の中を吹きぬけていました。時刻は真夜中というよりは、もう明け方近いころでした。向うの馬屋の床の上には、旅まわりの音楽師の一家が眠っていました。たぶん、父親と母親は瓶の中の燃えつくような雫(しずく)を夢にみていたものでしょう。青白い小さな女の子は眼の中の燃えるような雫を夢にみていました。竪琴は頭のそばに置いてあり、犬は足もとに横たわっていました。――」
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第三十一夜
「ある小さい田舎町でのことでした」と、月が言いました。
「わたしはそれを去年見ました。しかし、まあ、そんなことはどうでもいいのです。ともかく、わたしははっきりと見たのです。今夜わたしはそのことを新聞で読みましたが、これはそんなにはっきりとはしていませんでした。
 宿屋の下の部屋に熊使いがすわって、夕飯を食べていました。熊は家の外のまき小屋のうしろにつながれていました。このあわれな熊は、見るからに恐ろしそうなようすをしていましたが、まだ一度も人に害を加えたことはありませんでした。上の屋根裏部屋では、わたしの明るい光を受けて、三人の小さい子供が遊んでいました。いちばん上の子はせいぜい六つぐらいで、いちばん下の子は二つをこしてはいませんでした。
『バタン、バタン』と階段を上ってくるものがありました。いったい、だれでしょう? 戸がガタンと開きました――それは熊でした。あの大きな、毛むくじゃらの熊ではありませんか!

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