【ブンゴウメール】走れメロス (13/31)
(346字。目安の読了時間:1分) 花嫁は、夢見心地で首肯(うなず)いた。 メロスは、それから花婿の肩をたたいて、 「仕度の無いのはお互さまさ。私の家にも、宝といっては、妹と羊だけだ。他には、何も無い。全部あげよう。もう一つ、メロスの弟になったことを誇ってくれ。」 花婿は揉(も)み手して、てれていた。 メロスは笑って村人たちにも会釈(えしゃく)して、宴席から立ち去り、羊小屋にもぐり込んで、死んだように深く眠った。 眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。 メロスは跳ね起き、南無三、寝過したか、いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。 きょうは是非とも、あの王に、人の信実の存するところを見せてやろう。 そうして笑って磔の台に上ってやる。
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【ブンゴウメール】走れメロス (12/31)
(363字。目安の読了時間:1分)
ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。 その頃には、雨も小降りになっていよう。 少しでも永くこの家に愚図愚図とどまっていたかった。 メロスほどの男にも、やはり未練の情というものは在る。 今宵呆然、歓喜に酔っているらしい花嫁に近寄り、 「おめでとう。私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。眼が覚めたら、すぐに市に出かける。大切な用事があるのだ。私がいなくても、もうおまえには優しい亭主があるのだから、決して寂しい事は無い。おまえの兄の、一ばんきらいなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ。おまえも、それは、知っているね。亭主との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。 ==============================================
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【ブンゴウメール】走れメロス (11/31)
(367字。目安の読了時間:1分)
新郎新婦の、神々への宣誓が済んだころ、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。
祝宴に列席していた村人たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狭い家の中で、むんむん蒸し暑いのも怺(こら)え、陽気に歌をうたい、手を拍(う)った。
メロスも、満面に喜色を湛(たた)え、しばらくは、王とのあの約束をさえ忘れていた。
祝宴は、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。
メロスは、一生このままここにいたい、と思った。
この佳い人たちと生涯暮して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。
ままならぬ事である。
メロスは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。
あすの日没までには、まだ十分の時が在る。 ==============================================
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【ブンゴウメール】走れメロス (10/31)
(371字。目安の読了時間:1分)
さあ、これから行って、村の人たちに知らせて来い。結婚式は、
メロスは、また、よろよろと歩き出し、
眼が覚めたのは夜だった。
メロスは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。
そうして、少し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ、
婿の牧人は驚き、それはいけない、
メロスは、待つことは出来ぬ、どうか明日にしてくれ給え、
婿の牧人も頑強であった。
なかなか承諾してくれない。
夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか婿をなだめ、
結婚式は、真昼に行われた。
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【お知らせ】
メールを受信できない方が多いため、
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しばらくこれで様子を見て、いずれはHTML形式/
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【ブンゴウメール】走れメロス (9/31)
セリヌンティウスは、縄打たれた。
メロスは、すぐに出発した。
初夏、満天の星である。
メロスはその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、村へ到着したのは、翌(あく)る日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事をはじめていた。
メロスの十六の妹も、きょうは兄の代りに羊群の番をしていた。
よろめいて歩いて来る兄の、疲労困憊(こんぱい)の姿を見つけて驚いた。
そうして、うるさく兄に質問を浴びせた。
「なんでも無い。」メロスは無理に笑おうと努めた。
「市に用事を残して来た。またすぐ市に行かなければならぬ。あす、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」
妹は頬をあからめた。
「うれしいか。綺麗(きれい)な衣裳も買って来た。さあ、これから行って、村の人たちに知らせて来い。
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【ブンゴウメール】走れメロス (8/31)
(373字。目安の読了時間:1分)
「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」 「なに、何をおっしゃる。」
「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」
メロスは口惜しく、地団駄(じだんだ)踏んだ。
ものも言いたくなくなった。
竹馬の友、セリヌンティウスは、深夜、王城に召された。
暴君ディオニスの面前で、佳(よ)き友と佳き友は、二年ぶりで相逢うた。
メロスは、友に一切の事情を語った。
セリヌンティウスは無言で首肯(うなず)き、メロスをひしと抱きしめた。
友と友の間は、それでよかった。
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【お知らせ&お詫び】
5月4日以降メールの配信形式を変更した影響で、ブンゴウメールが迷惑メールなどに振り分けられるケースが増えていたようです。
ここ数日メールが届かなかったという方は、いま一度迷惑メールフォルダなどご確認ください。
(見逃した分は公式ブログ (https://bungomail.hatenablog.com) でもご確認いただけます)
まだまだ試行錯誤中のため、色々とご迷惑おかけしてすみません
よりよいサービスにしていけるようメロス並みにがんばりますので、引き続きよろしくお願いいたします。
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【ブンゴウメール】走れメロス (7/31)
(408字。目安の読了時間:1分)
「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にセリヌンティウスという石工がいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」
それを聞いて王は、残虐な気持で、そっと北叟笑(ほくそえ)んだ。
生意気なことを言うわい。
どうせ帰って来ないにきまっている。
この嘘つきに騙(だま)された振りして、放してやるのも面白い。
そうして身代りの男を、三日目に殺してやるのも気味がいい。
人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りの男を磔刑に処してやるのだ。
世の中の、正直者とかいう奴輩(やつばら)にうんと見せつけてやりたいものさ。