ブンゴウメール公式ブログ

青空文庫の作品を1ヶ月で読めるように毎日小分けでメール配信してくれるサービス「ブンゴウメール」のブログです

一房の葡萄(14/15)

(472字。目安の読了時間:1分)

僕はなんだか訳がわかりませんでした。
学校に行ったらみんなが遠くの方から僕を見て「見ろ泥棒の※(うそ)つきの日本人が来た」とでも悪口をいうだろうと思っていたのにこんな風にされると気味が悪い程でした。
 二人の足音を聞きつけてか、先生はジムがノックしない前に、戸を開けて下さいました。
二人は部屋の中に這入りました。
「ジム、あなたはいい子、よく私の言ったことがわかってくれましたね。ジムはもうあなたからあやまって貰(もら)わなくってもいいと言っています。二人は今からいいお友達になればそれでいいんです。二人とも上手に握手をなさい。」と先生はにこにこしながら僕達を向い合せました。
僕はでもあんまり勝手過ぎるようでもじもじしていますと、ジムはいそいそとぶら下げている僕の手を引張り出して堅く握ってくれました。
僕はもうなんといってこの嬉(うれ)しさを表せばいいのか分らないで、唯恥しく笑う外ありませんでした。
ジムも気持よさそうに、笑顔をしていました。
先生はにこにこしながら僕に、

「昨日の葡萄(ぶどう)はおいしかったの。」

=========================
ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! 
https://bit.ly/3xZVCoY

Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv
■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.com
青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/000025/files/211_20472.html
■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail
■月末まで一時的に配信を停止: https://bungomail.com/unsubscribe

-------
配信元: ブンゴウメール編集部
NOT SO BAD, LLC.
Web: https://bungomail.com
配信停止:https://bungomail.com/unsubscribe

一房の葡萄(13/15)

(目安の読了時間:1分)

僕はいつものように海岸通りを、海を眺めたり船を眺めたりしながらつまらなく家に帰りました。
そして葡萄をおいしく喰べてしまいました。
 けれども次の日が来ると僕は中々学校に行く気にはなれませんでした。
お腹が痛くなればいいと思ったり、頭痛がすればいいと思ったりしたけれども、その日に限って虫歯一本痛みもしないのです。
仕方なしにいやいやながら家は出ましたが、ぶらぶらと考えながら歩きました。
どうしても学校の門を這入ることは出来ないように思われたのです。
けれども先生の別れの時の言葉を思い出すと、僕は先生の顔だけはなんといっても見たくてしかたがありませんでした。
僕が行かなかったら先生は屹度悲しく思われるに違いない。
もう一度先生のやさしい眼で見られたい。
ただその一事があるばかりで僕は学校の門をくぐりました。
 そうしたらどうでしょう、先ず第一に待ち切っていたようにジムが飛んで来て、僕の手を握ってくれました。
そして昨日のことなんか忘れてしまったように、親切に僕の手をひいてどぎまぎしている僕を先生の部屋に連れて行くのです。
僕はなんだか訳がわかりませんでした。

=========================
【お知らせ】
青空文庫の作品を読了時間で検索できる姉妹サービス「ブンゴウサーチ」で、検索がより便利になる機能改修を行いました!

↓↓詳細はこちら↓↓
https://note.com/notsobad_jp/n/ne0cefc5e3e6d

これまでブンゴウサーチでは同じタイトルで登録されている作品が多くて探しにくい問題があったのですが、今回の改修ではこの問題を解消しています。
例えば野村胡堂の『銭形平次捕物控』はシリーズで400作品以上が同じ名前で並んでいてまったく見分けがつかなかったのですが、今回の改修でついに見分けられるようになりました。以前に挫折した方もぜひこの機会に再挑戦してみてください!

=========================
ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! 
https://bit.ly/3xZVCoY

↓↓8月以降のブンゴウメール有料化についての詳細はこちら↓↓
https://note.com/notsobad_jp/n/nb746ad12c530

Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv
■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.com
青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/000025/files/211_20472.html
■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail

-------
配信元: ブンゴウメール編集部
NOT SO BAD, LLC.
Web: https://bungomail.com
配信停止:https://bungomail.com/unsubscribe

一房の葡萄(12/15)

(489字。目安の読了時間:1分)

あの位好きな先生を苦しめたかと思うと僕は本当に悪いことをしてしまったと思いました。
葡萄(ぶどう)などは迚(とて)も喰(た)べる気になれないでいつまでも泣いていました。
 ふと僕は肩を軽くゆすぶられて眼をさましました。
僕は先生の部屋でいつの間にか泣寝入りをしていたと見えます。
少し痩せて身長の高い先生は笑顔を見せて僕を見おろしていられました。
僕は眠ったために気分がよくなって今まであったことは忘れてしまって、少し恥しそうに笑いかえしながら、慌てて膝の上から辷(すべ)り落ちそうになっていた葡萄の房をつまみ上げましたが、すぐ悲しいことを思い出して笑いも何も引込んでしまいました。
「そんなに悲しい顔をしないでもよろしい。もうみんなは帰ってしまいましたから、あなたはお帰りなさい。そして明日はどんなことがあっても学校に来なければいけませんよ。あなたの顔を見ないと私は悲しく思いますよ。屹度ですよ。」
 そういって先生は僕のカバンの中にそっと葡萄の房を入れて下さいました。
僕はいつものように海岸通りを、海を眺めたり船を眺めたりしながらつまらなく家に帰りました。

=========================
ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! 
https://bit.ly/3xZVCoY

Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv
■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.com
青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/000025/files/211_20472.html
■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail
■月末まで一時的に配信を停止: https://bungomail.com/unsubscribe

-------
配信元: ブンゴウメール編集部
NOT SO BAD, LLC.
Web: https://bungomail.com
配信停止:https://bungomail.com/unsubscribe

一房の葡萄(11/15)

(497字。目安の読了時間:1分)

ぶるぶると震えてしかたがない唇を、噛(か)みしめても噛みしめても泣声が出て、眼からは涙がむやみに流れて来るのです。
もう先生に抱かれたまま死んでしまいたいような心持ちになってしまいました。
「あなたはもう泣くんじゃない。よく解ったらそれでいいから泣くのをやめましょう、ね。次ぎの時間には教場に出ないでもよろしいから、私のこのお部屋に入らっしゃい。静かにしてここに入らっしゃい。私が教場から帰るまでここに入らっしゃいよ。いい。」と仰りながら僕を長椅子に坐(すわ)らせて、その時また勉強の鐘がなったので、机の上の書物を取り上げて、僕の方を見ていられましたが、二階の窓まで高く這(は)い上った葡萄蔓(ぶどうづる)から、一房の西洋葡萄をもぎって、しくしくと泣きつづけていた僕の膝の上にそれをおいて静かに部屋を出て行きなさいました。

 一時がやがやとやかましかった生徒達はみんな教場に這入って、急にしんとするほどあたりが静かになりました。
僕は淋(さび)しくって淋しくってしようがない程悲しくなりました。
あの位好きな先生を苦しめたかと思うと僕は本当に悪いことをしてしまったと思いました。

=========================
ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! 
https://bit.ly/3xZVCoY

Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv
■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.com
青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/000025/files/211_20472.html
■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail
■月末まで一時的に配信を停止: https://bungomail.com/unsubscribe

-------
配信元: ブンゴウメール編集部
NOT SO BAD, LLC.
Web: https://bungomail.com
配信停止:https://bungomail.com/unsubscribe

一房の葡萄(10/15)

(468字。目安の読了時間:1分)

と聞かれました。
本当なんだけれども、僕がそんないやな奴だということをどうしても僕の好きな先生に知られるのがつらかったのです。
だから僕は答える代りに本当に泣き出してしまいました。
 先生は暫く僕を見つめていましたが、やがて生徒達に向って静かに「もういってもようございます。」といって、みんなをかえしてしまわれました。
生徒達は少し物足らなそうにどやどやと下に降りていってしまいました。
 先生は少しの間なんとも言わずに、僕の方も向かずに自分の手の爪を見つめていましたが、やがて静かに立って来て、僕の肩の所を抱きすくめるようにして「絵具はもう返しましたか。」と小さな声で仰いました。
僕は返したことをしっかり先生に知ってもらいたいので深々と頷(うなず)いて見せました。
「あなたは自分のしたことをいやなことだったと思っていますか。」
 もう一度そう先生が静かに仰った時には、僕はもうたまりませんでした。
ぶるぶると震えてしかたがない唇を、噛(か)みしめても噛みしめても泣声が出て、眼からは涙がむやみに流れて来るのです。

=========================
ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! 
https://bit.ly/3xZVCoY

↓↓8月以降のブンゴウメール有料化についての詳細はこちら↓↓
https://note.com/notsobad_jp/n/nb746ad12c530

Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv
■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.com
青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/000025/files/211_20472.html
■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail
■月末まで一時的に配信を停止: https://bungomail.com/unsubscribe

-------
配信元: ブンゴウメール編集部
NOT SO BAD, LLC.
Web: https://bungomail.com
配信停止:https://bungomail.com/unsubscribe

一房の葡萄(9/15)

(463字。目安の読了時間:1分)

僕は出来るだけ行くまいとしたけれどもとうとう力まかせに引きずられて階子段を登らせられてしまいました。
そこに僕の好きな受持ちの先生の部屋があるのです。
 やがてその部屋の戸をジムがノックしました。
ノックするとは這入ってもいいかと戸をたたくことなのです。
中からはやさしく「お這入り」という先生の声が聞えました。
僕はその部屋に這入る時ほどいやだと思ったことはまたとありません。
 何か書きものをしていた先生はどやどやと這入って来た僕達を見ると、少し驚いたようでした。
が、女の癖に男のように頸(くび)の所でぶつりと切った髪の毛を右の手で撫(な)であげながら、いつものとおりのやさしい顔をこちらに向けて、一寸首をかしげただけで何の御用という風をしなさいました。
そうするとよく出来る大きな子が前に出て、僕がジムの絵具を取ったことを委しく先生に言いつけました。
先生は少し曇った顔付きをして真面目にみんなの顔や、半分泣きかかっている僕の顔を見くらべていなさいましたが、僕に「それは本当ですか。」と聞かれました。

=========================
ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! 
https://bit.ly/3xZVCoY

Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv
■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.com
青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/000025/files/211_20472.html
■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail
■月末まで一時的に配信を停止: https://bungomail.com/unsubscribe

-------
配信元: ブンゴウメール編集部
NOT SO BAD, LLC.
Web: https://bungomail.com
配信停止:https://bungomail.com/unsubscribe

一房の葡萄(8/15)

(541字。目安の読了時間:2分)

すると誰だったかそこに立っていた一人がいきなり僕のポッケットに手をさし込もうとしました。
僕は一生懸命にそうはさせまいとしましたけれども、多勢に無勢で迚(とて)も叶(かな)いません。
僕のポッケットの中からは、見る見るマーブル球(今のビー球のことです)や鉛のメンコなどと一緒に二つの絵具のかたまりが掴み出されてしまいました。
「それ見ろ」といわんばかりの顔をして子供達は憎らしそうに僕の顔を睨(にら)みつけました。
僕の体はひとりでにぶるぶる震えて、眼の前が真暗になるようでした。
いいお天気なのに、みんな休時間を面白そうに遊び廻っているのに、僕だけは本当に心からしおれてしまいました。
あんなことをなぜしてしまったんだろう。
取りかえしのつかないことになってしまった。
もう僕は駄目だ。
そんなに思うと弱虫だった僕は淋(さび)しく悲しくなって来て、しくしくと泣き出してしまいました。
「泣いておどかしたって駄目だよ。」とよく出来る大きな子が馬鹿にするような憎みきったような声で言って、動くまいとする僕をみんなで寄ってたかって二階に引張って行こうとしました。
僕は出来るだけ行くまいとしたけれどもとうとう力まかせに引きずられて階子段を登らせられてしまいました。

=========================
ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! 
https://bit.ly/3xZVCoY

Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv
■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.com
青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/000025/files/211_20472.html
■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail
■月末まで一時的に配信を停止: https://bungomail.com/unsubscribe

-------
配信元: ブンゴウメール編集部
NOT SO BAD, LLC.
Web: https://bungomail.com
配信停止:https://bungomail.com/unsubscribe