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【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (1/31)

(667字。目安の読了時間:2分)  この話が私の夢か私の一時的狂気の幻でなかったならば、あの押絵と旅をしていた男こそ狂人であったに相違ない。 だが、夢が時として、どこかこの世界と喰違った別の世界を、チラリと覗(のぞ)かせてくれる様に、又狂人が、我々の全く感じ得ぬ物事を見たり聞いたりすると同じに、これは私が、不可思議な大気のレンズ仕掛けを通して、一刹那、この世の視野の外にある、別の世界の一隅を、ふと隙見したのであったかも知れない。  いつとも知れぬ、ある暖かい薄曇った日のことである。 その時、私は態々魚津へ蜃気楼を見に出掛けた帰り途であった。 私がこの話をすると、時々、お前は魚津なんかへ行ったことはないじゃないかと、親しい友達に突っ込まれることがある。 そう云(い)われて見ると、私は何時の何日に魚津へ行ったのだと、ハッキリ証拠を示すことが出来ぬ。 それではやっぱり夢であったのか。 だが私は嘗(かつ)て、あのように濃厚な色彩を持った夢を見たことがない。 夢の中の景色は、映画と同じに、全く色彩を伴わぬものであるのに、あの折の汽車の中の景色丈けは、それもあの毒々しい押絵の画面が中心になって、紫と臙脂の勝た色彩で、まるで蛇の眼の瞳孔の様に、生々しく私の記憶に焼ついている。 着色映画の夢というものがあるのであろうか。  私はその時、生れて初めて蜃気楼というものを見た。 蛤(はまぐり)の息の中に美しい龍宮城の浮んでいる、あの古風な絵を想像していた私は、本物の蜃気楼を見て、膏汗のにじむ様な、恐怖に近い驚きに撃たれた。 ============================================== ハッシュタグ「#ブンゴウメール」をつけて感想をつぶやこう! https://goo.gl/kCZPg6 ■Twitterでみんなの感想を見る:https://goo.gl/rgfoDv ■ブンゴウメール公式サイト:https://bungomail.notsobad.jp ■次に読みたい作品を教えてください!:http://blog.notsobad.jp/entry/2018/05/03/145404 ■青空文庫でこの作品を読む:https://www.aozora.gr.jp/cards/001779/files/56645_58203.html ■運営へのご支援はこちら: https://www.buymeacoffee.com/bungomail [PR] 無料で50分英会話レッスンが受講できる人気のアプリ「レアジョブ英会話」 ▼ ▽ ▼ https://goo.gl/i56Kg6 ============================================== Unsubscribe *|HTML:EMAIL|* from this list: *|UNSUB|*