【ブンゴウメール】押絵と旅する男 (18/31)
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兄はその日も、丁度今日の様などんよりとした、いやな日でござんしたが、おひる過から、その頃兄の工風で仕立てさせた、当時としては飛び切りハイカラな、黒天鵞絨の洋服を着ましてね、この遠眼鏡を肩から下げ、ヒョロヒョロと、日本橋通りの、馬車鉄道の方へ歩いて行くのです。
私は兄に気どられぬ様に、ついて行った訳ですよ。
よござんすか。
しますとね、兄は上野行きの馬車鉄道を待ち合わせて、ひょいとそれに乗り込んでしまったのです。
当今の電車と違って、次の車に乗ってあとをつけるという訳には行きません。
何しろ車台が少のござんすからね。
私は仕方がないので母親に貰(もら)ったお小遣いをふんぱつして、人力車に乗りました。
人力車だって、少し威勢のいい挽子なれば馬車鉄道を見失わない様に、あとをつけるなんぞ、訳なかったものでございますよ。
兄が馬車鉄道を降りると、私も人力車を降りて、又テクテクと跡をつける。
そうして、行きついた所が、なんと浅草の観音様じゃございませんか。
兄は仲店から、お堂の前を素通りして、お堂裏の見世物小屋の間を、人波をかき分ける様にしてさっき申上げた十二階の前まで来ますと、石の門を這入って、お金を払って「凌雲閣」という額の上った入口から、塔の中へ姿を消したじゃあございませんか。
まさか兄がこんな所へ、毎日毎日通っていようとは、夢にも存じませんので、私はあきれてしまいましたよ。
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