【ブンゴウメール】人間椅子 (30/31)
(586字。目安の読了時間:2分)
手紙の後の方は、いっそ読まないで、破り棄てて了おうかと思ったけれど、どうやら気懸りなままに、居間の小机の上で、兎も角も、読みつづけた。
彼女の予感はやっぱり当っていた。
これはまあ、何という恐ろしい事実であろう。
彼女が毎日腰かけていた、あの肘掛椅子の中には、見も知らぬ一人の男が、入っていたのであるか。
「オオ、気味の悪い」
彼女は、背中から冷水をあびせられた様な、悪寒を覚えた。
そして、いつまでたっても、不思議な身震いがやまなかった。
彼女は、あまりのことに、ボンヤリして了って、これをどう処置すべきか、まるで見当がつかぬのであった。
椅子を調べて見る(?)どうしてどうして、そんな気味の悪いことが出来るものか。
そこには仮令、もう人間がいなくても、食物その他の、彼に附属した汚いものが、まだ残されているに相違ないのだ。
「奥様、お手紙でございます」
ハッとして、振り向くと、それは、一人の女中が、今届いたらしい封書を持て来たのだった。
佳子は、無意識にそれを受取って、開封しようとしたが、ふと、その上書を見ると、彼女は、思わずその手紙を取りおとした程も、ひどい驚きに打たれた。
そこには、さっきの無気味な手紙と寸分違わぬ筆癖をもって、彼女の名宛が書かれてあったのだ。
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