【ブンゴウメール】風琴と魚の町 (1/30)
(541字。目安の読了時間:2分)
1 父は風琴を鳴らすことが上手であった。
音楽に対する私の記憶は、この父の風琴から始まる。
私達は長い間、汽車に揺られて退屈していた、母は、私がバナナを食んでいる傍で経文を誦(ず)しながら、泪(なみだ)していた。
「あなたに身を託したばかりに、私はこの様に苦労しなければならない」と、あるいはそう話しかけていたのかも知れない。
父は、白い風呂敷包みの中の風琴を、時々尻で押しながら、粉ばかりになった刻み煙草を吸っていた。
私達は、この様な一家を挙げての遠い旅は一再ならずあった。
父は目蓋をとじて母へ何か優し気に語っていた。
「今に見いよ」とでも云(い)っているのであろう。
蜒々(えんえん)とした汀(なぎさ)を汽車は這(は)っている。
動かない海と、屹立した雲の景色は十四歳の私の眼に壁のように照り輝いて写った。
その春の海を囲んで、たくさん、日の丸の旗をかかげた町があった。
目蓋をとじていた父は、朱い日の丸の旗を見ると、せわしく立ちあがって汽車の窓から首を出した。
「この町は、祭でもあるらしい、降りてみんかやのう」
母も経文を合財袋にしまいながら、立ちあがった。
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■著者情報
林芙美子(はやし ふみこ)
1903年12月31日〜1951年6月28日。
戦前から戦後にかけて文筆活動を行った小説家。貧しかった生い立ちからか、底辺の庶民を慈しむように描いた作品に定評がある。心臓麻痺により47歳で急逝。代表作は、半自伝的な文壇デビュー作『放浪記』や、晩年の名作『浮雲』など。
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